フッ化物処理合成ハイドロキシアパタイトへのタンパク質吸着に関する界面電気化学的研究
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概要
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フッ素 (F) の齲蝕予防メカニズムが歯面環境の変化により起こると考えると, 歯表面の齲蝕発症に関わる宿主, 病原, 環境因子および各因子の相互作用に及ぼすFの影響を明らかにすることは意義がある. 本研究では, 歯面へのフッ化物の応用が, 歯表面へのタンパク質の吸着現象, すなわち, ペリクルの生成にどのような影響を及ぼすかを検索する目的で, フッ化ナトリウム (NaF) 溶液およびリン酸酸性フッ化ナトリウム (APF) 溶液で処理した合成ハイドロキシアパタイト (HAp) へのタンパク質吸着現象を界面電気化学的に解析した. HApのフッ化物処理は, HAp 50mgを3種類のF濃度 (0.01%, 0.1%および0.9%) に調整したNaFおよびAPF溶液25mlに4分間浸漬し, 蒸留水にて5回洗浄後, 常温で24時間乾燥して行った. タンパク質溶液は, 等電点の異なる3種類のヒト血清アルブミン (HSA), トリ卵白コンアルブミン (CA) およびサケプロタミン (PR) をそれぞれ5段階のタンパク質濃度になるように, 1/30Mリン酸緩衝液 (pH7.0) で調整した. フッ化物処理HApへのタンパク質の吸着は, タンパク質溶液40mlにフッ化物処理HApを50mg分散させ, 室温で1時間放置して行った. ゼータ電位の測定は, レーザー光源付き顕微鏡式電気泳動装置を用い, 通法に従って行った. 得られたゼータ電位にもとづくフッ化物処理HApへのタンパク質吸着現象の解析は, 三宅らの式を用いて算出したゼータ電位の成分解析, フッ化物処理HApへのタンパク質の吸着被覆率 (θ) および吸着自由エネルギー (ΔG) から行った. HSA溶液中におけるゼータ電位は, NaF処理HApが無処理HApと同様の変動を示したのに対し, 0.01%Fおよび0.1%F-APF処理HApが, 無処理HApより有意に高い値 (P<0.05) で推移し, さらに, 0.9%F-APF処理HApが, HSAの濃度を増加しても小さい変動であった. CA溶液中におけるゼータ電位は, NaFおよびAPF処理HApともに無処理HApと同様の変動を示した. 一方, PR溶液中におけるゼータ電位は, 各F濃度のNaFおよび0.01% APF処理HApが無処理HApと同様にPR濃度増加にともない著しく高くなったのに対し, 0.1%Fおよび0.9% F-APF処理HApが小さい変動で推移し, 無処理HApに比べ有意に低い値を示した (P<0.01) そこで, 三宅らの式を用い, 得られたゼータ電位の解析を行った結果, NaFおよびAPFで処理したHApへのタンパク質の吸着がLangmuir型の単分子吸着であること, また, NaFおよびAPFで処理したHApのゼータ電位はタンパク質で覆われている部分の電位と覆われていない部分の電位との和で表わされることが確認できた. また, 式から求めたθおよびΔGは, NaF処理HApが無処理HApとほぼ同程度の値を示したが, APF処理HApでは異なった値を示した. すなわち, HSAのθおよびΔGは, APF処理濃度が0.01%, 0.1%および0.9%Fと高くなるにしたがい低くなり, CAのθおよびΔGは, すべてのAPF処理濃度において無処理HApよりも低い値を示した. さらに, PRのθおよびΔGは, 0.1%, 0.9%F-APF処理HApにおいて無処理HApに比べ, 著しく低い値を示した. 以上のことから, フッ化物処理HApへのタンパク質の吸着現象は, NaF処理により影響を受けないが, APF処理により阻害され, とくにPRで顕著であることがわかった. また, このタンパク質吸着阻害が, APF処理によるHApの表面電位構造および疎水性の変化によるものであることが示唆された.
- 1991-08-25