全身麻酔下での頭部低位による頭蓋内圧環境の変化
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概要
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懸垂頭位や頭部後屈位などの, いわゆる頭部低位での麻酔管理を行う場合, 脳静脈還流障害に基づく頭蓋内圧 (ICP) 上昇に留意する必要があるが, その病態に関しては不明の点が多い. そこで, 全身麻酔下, 頭部低位状態での頭蓋内圧環境の変化を明らかにする目的で, 頭蓋腔の圧-容量関係を実験的に検討した. 方法 実験動物には, ネコ31匹 (2.4〜4.6kg) を用いた. 実験1 : 頭部低位および頭部高位による頭蓋内圧環境の変化 (n=22) ペントバルビタール/笑気/酸素による麻酔ネコを水平腹臥位の状態にして, 側脳室内に生食液0.3mlを注入 (頭蓋内容量負荷) した. このときの大槽圧 (CMP) 変化をICP変化とみなし, Marumarouらの方法に準じてpressure volume index (PVI), 頭蓋腔コンプライアンス (Co) を算出して, これを対照値とした (水平位群). PVI (ml)=ΔV/log(Pp/Po), Co(ml/mmHg)=0.4343・PVI/Po (Po : 注入直前の圧 Pp : 注入直後のピーク圧 ΔV : 注入量) ついで, 頭部が低下するように体幹全体を20度傾斜させた状態 (頭部低位群), 頭部が挙上するように20度傾斜させた状態 (頭部高位群) で同様の操作を行い, それぞれPVIおよびCoを求めて対照値と比較した. また, Coとそれに対応するICP (Po) との関係を求め, Po-Co曲線を作成して3群間の比較を行った. なお, 6匹については, これらの測定前に水平位から頭部低位に体位変換させ, ICP, 矢状静脈洞圧 (SSP) の変化を観察した. 実験2 : 頚髄結紮下での頭部低位による頭蓋内圧環境の変化 (n=9) 頚髄結紮により脳脊髄液 (CSF) の移動を遮断し, 水平位および頭部低位でPVI, Coを求めて, 2群間の値を比較した. 結果 1. 頭部低位によるICP, SSPの変化 ICPは5.2±1.9mmHg (mean±SE, n=6) から12.2±2.1mmHgに, SSPは1.5±0.8mmHgから4.3±0.7mmHgに, いずれも水平位の値に対し上昇した. 2. PVIの比較 3群のPVI平均値は, 水平位群0.78±0.01ml, 頭部低位群1.01±0.01ml, 頭部高位群0.76±0.01mlと, 頭部低位群が他の2群に比較して高値を示した. 水平位, 頭部高位群間には有意差はなかった. 3. Po-Co関係の比較 3群ともhyperbolicな特性をもつ関数で表わされたが, 頭部低位群のPo-Co曲線は, 他の2群の曲線に比べ右方にシフトし, とくにICPが10mmHg以下の低圧領域では, Coは大きい値を示した. 4. 頚髄結紮下, 頭部低位によるPVIの変化 水平位群0.38±0.02ml, 頭部低位群0.50±0.02mlと, 頚髄非結紮時に比較して, それぞれ48.7%, 49.5%に減少したが, 非結紮時と同様に頭部低位群の方が水平位群に比べ高値を示した. 結論 全身麻酔下での頭部低位による頭蓋内圧環境を, PVI, Coを指標として評価すると, ICP上昇に対する緩衝能が水平位よりも増加していることが明らかとなった. また, 頚髄結紮下での頭部低位群のPVIが水平位群より高値を示すことから, この機序に関与するものは, CSFの脊椎腔への移動によるものではなく, 血液うっ滞により増大した脳静脈血管床を介した作用であることがうかがわれた.
- 1991-04-25
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