ヒト歯髄線維芽細胞のアルカリホスファターゼ活性に関する研究
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概要
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歯髄組織の性質を明らかにすることを目的として, ヒトの永久歯および乳歯に由来する歯髄線維芽細胞 (HPF) を分離し, 継代培養している過程で, 活性型ビタミンD_3に対するアルカリホスファターゼ (ALPase) 活性の感受性が異なる2種の細胞 (HPF-1およびHPF-2) を見いだした. 本研究は, HPF-1およびHPF-2の各10株ずつを用いて, 活性型ビタミンD_3に対するALPase活性の反応性を検討するとともに, ウシ胎児血清を添加したDulbecco's modified Eagle培養液 (complete DME), およびHPF自身のconditioned mediumを添加した培養液のそれぞれで培養したときの増殖能, タンパク合成能, ALPase活性, および走化性を検討し, ヒト歯肉由来線維芽細胞 (Gin 1) の性質と比較した. なお, 増殖は細胞数の増減で, タンパク量はprotein-dye binding法で, ALPase活性はフェニルリン酸法で, 走化性はmembrane filter法でそれぞれ測定した. その結果, complete DME中で14日間連続して培養すると, HPF-2とGin 1の細胞数は培養期間を通じてほとんど一定の割合で増加したが, HPF-1は培養開始後5日から6日まで急激に細胞数が増加し, 密な細胞の単層を形成後は細胞数にほとんど変化がなくなった. Complete DME中で培養した場合の総タンパク量は, HPF-1とHPF-2との間に差がなく, 培養期間を通じて一定の割合で増加した. また, ALPase活性の経日的な変化は3つの細胞間で異なった推移を示し, HPF-1では細胞数の増加率が低くなると急激にALPase活性が上昇するのに対して, HPF-2のALPase活性は培養期間を通じて細胞数の増加率とほとんど同じ割合で上昇した. なお, Gin 1のALPase活性は低く, 培養期間を通じてほとんど変化を示さなかった. つぎに, 1,25(OH)_2D_3を添加すると, HPF-1のALPase活性は対照の5倍から6倍に上昇し, HPF-2は継代時のALPase活性がHPF-1より低いにもかかわらず, 1,25(OH)_2D_3を添加したときのALPase活性は対照の9倍から15倍まで上昇した. なお, 24,25(OH)_2D_3を添加した場合には, いずれの細胞のALPaseもほとんど活性に変化がなかった. さらに, HPF白身のconditioned mediumを添加して培養した場合の増殖を比較すると, HPF-1の細胞数が最も大きく増加し, 続いてHPF-2, Gin 1の順に細胞数の増加率は低くなった. しかし, 総タンパク質を比較すると, いずれの細胞も同じ程度に増加し, 細胞間で差は認められなかった. また, conditioned mediumを添加した条件下で培養した場合のALPaseは, HPF-1では対照の約2倍に, HPF-2では対照の3.5から5倍にまで活性が上昇した. Conditioned mediumに対する走化性については, すべての細胞に同程度の走化活性が認められ, また培養時間と走化性との関係, およびconditioned mediumの濃度と走化性との関係はともにすべての細胞種で同じ傾向を示した. 以上の結果は, 本研究で用いたヒト歯髄組織に由来する線維芽細胞が, ヒト歯肉由来の線維芽細胞と異なった性質をもつだけでなく, ヒト歯髄の線維芽細胞の中にも異なった分化形質をもつ細胞があることを示唆しており, このような細胞の性質を検討し明らかにしていくことが, 歯髄組織の特殊な生物学的性質を解明していく手がかりになると考える.
- 1991-04-25
著者
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