乳歯歯髄炎の歯髄内血液像による鑑別診断に関する研究
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概要
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従来より歯髄診断に関する研究は多いが, 臨床診査が術者や患者の主観に左右され, 臨床診断と病理組織診断の一致率は低い. 特に, 乳歯歯髄炎の診断においては, 小児を対象とするために診査条件が不利で, しかも, 乳歯歯髄炎の病変は進行が迅速なために, 炎症の波及程度が判定できず, 的確な歯髄診断が困難である. しかし, 小児歯科臨床において, 生活歯髄切断処置や抜髄処置の適応を正確に判断するためには, 歯髄の炎症の波及程度を客観的に診断する方法が必要である. そこで, 本研究では, 生活歯髄切断処置を前提とした乳歯齲蝕歯を対象にして, 歯髄内血液像と冠部歯髄の病理組織像とを比較し, 歯髄内血液像による乳歯歯髄炎の鑑別診断について検討した. 対象は, 広島大学歯学部附属病院小児歯科外来を訪れた, 齲蝕以外には特記すべき疾患のない健常な小児81名であり, 対象歯は, 長坂の臨床診断基準に基づいて生活歯髄切断処置が必要と診断された齲蝕歯100例, 第一乳臼歯54例, 第二乳臼歯46例である. 生活歯髄切断処置は通法に従って行い, 天蓋除去後に, ギャピラリーチューブで歯髄内より採血し, さらに, 鋭利なスプーンエキスカベーターで冠部歯髄を可及的に一塊として採取した. 血液塗抹標本および病理組織標本を通法に従って作製し, 血液像については, 白血球計200個カウントして各種白血球の百分比を算出し, 歯髄内血液像と冠部歯髄の病理組織像とを比較した. さらに, 処置歯の経過観察も行い, 歯髄内血液像による乳歯歯髄炎の鑑別診断について検討し, 以下の結果を得た. 1) 乳歯歯髄内の血液像において, リンパ球の比率は, 年齢に関係なく, 末梢血液像の正常値より高いものが多く, 歯髄炎の鑑別の指標になることを示唆した. 2) 生活歯髄切断処置を前提とした冠部歯髄の病理組織の炎症程度を, 炎症所見を認めない (-), 軽度限局性円形細胞浸潤を認める (+), 軽度ないし中等度瀰漫性に円形細胞漫潤を認める (++), 高度瀰漫性に円形細胞浸潤を認める (+++) の4段階に分類したところ, (-) はなく, (+) 37例, (++) 47例, (+++) 16例を認めた. 3) 血液像におけるリンパ球の比率を, 冠部歯髄の炎症程度別でみると, (+) ではリンパ球の比率60%以上が全症例の86.5%を占め, (++) では全症例の61.7%を占めて, 共に高率だったが, (+++) は60%以上がなく, すべて57%未満であった. 4) 冠部歯髄切断時に止血困難であった症例の割合は, 冠部歯髄の炎症程度 (+) では32.4%, (++) では25.5%だったが, (+++) は62.5%で高率であった. 5) 生活歯髄切断処置後に臨床的およびX線学的経過観察が行えた46例について, 不良は16例であり, 冠部歯髄の炎症程度 (+) と(++) を合わせて42例中12例 (28.6%), (+++) では4例 (100%) すべて不良であった. 6) 冠部歯髄切断後, 止血困難で, しかも, 歯髄内血液像のリンパ球の比率が57%未満である場合は, 生活歯髄切断処置の適応症でないことが示唆された. 本研究により, 乳歯歯髄炎の鑑別診断を的確にする方法を示唆することができた. 今後, 血液像の判定に対する判定シェードを作成することにより, 短時間に臨床の場で鑑別することは可能であり, 小児歯科臨床における乳歯歯髄の新しい診断法として応用できるものと考える.
- 1991-04-25
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