乳歯の歯根吸収に関する臨床的研究 : オルソパントモグラムによる
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概要
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乳歯の歯根吸収は, 永久歯の発育とともに, 生理的状況下では後継永久歯へ交換が円滑に行われ, 健全で正常な永久歯歯列へと移行すると一般的にいわれている. しかしながら, 日常小児歯科臨床において, 発育期の小児の乳歯歯根吸収は, 遺伝的要因をはじめ, 咬合関係, 齲蝕, 修復物などの一次的ならびに二次的な原因による病変の影響などによって, 乳歯の歯根吸収の時期や吸収状態が大きく左右されることを経験する. 乳歯の歯根吸収の進行は, 乳歯の部位や後継永久歯との位置関係および石灰化の程度と深く関連するので, 小児歯科臨床においては, 乳歯歯根吸収状態を的確に把握して対応することが大切である. そこで, 著者は, オルソパントモグラムを用い, Fanningの判定基準を参考に乳歯歯根吸収状態を3段階 (歯根1/4, 歯根1/2および歯根3/4吸収期) に分類し, 性差, 左右側歯の差, 上下顎歯の差, 各吸収期における平均年齢を調査するとともに後継永久歯の石灰化期との対比を行い, その資料をもとに乳歯歯根吸収段階の標準図表を作成して, 小児歯科臨床に役立てることを目的として本研究に着手した. 研究材料は, 1981年3月1日から1987年7月31日までに大阪歯科大学附属病院小児歯科外来を訪れた2歳0か月〜14歳11か月の患児に診療上の必要があって撮影されたオルソパントモグラム11,167枚 (男児 : 5,759枚, 女児 : 5,408枚) を用いた. この中には, 先天的疾患保有児, 周産期障害児, 既往の重篤な全身疾患保有児, 多数齲歯保有児および無菌症などの歯の形成に障害があると認められる患児の資料および映像が不鮮明で読影の困難な資料は除外している. なお, 調査対象の小児は4,143名 (男児 : 2,205名, 女児 : 1,938名), オルソパントモグラフはORTHOPANTOMOGRAPH OP3, OP5 (PALOMEX-SIEMENS社製) を用いて大阪歯科大学附属病院歯科放射線科で撮影されたものである. その結果, 以下のことがわかった. 1) 各乳歯における歯根吸収段階には, 男女児ともに左右側歯間で差はなかった. 2) 各乳歯における歯根吸収段階の平均年齢は, 男児より女児において, 上顎歯より下顎歯においてそれぞれ低かった. 3) 乳歯歯根1/4吸収期から乳歯歯根3/4吸収期までの吸収期間は, 上顎では乳前歯部より乳臼歯部で長く, 下顎では乳前歯部より乳臼歯部のほうが短かった. また, 乳切歯および乳犬歯の吸収期間には, 上下顎歯間の差はなかったが, 乳臼歯では, 上顎歯のほうが下顎歯より長かった. 4) 各乳歯における吸収段階と, その乳歯に対応する後継永久歯の石灰化段階の関連をみると, (1) 乳歯歯根1/4吸収期の平均年齢は, 上下顎犬歯を除いて, 各後継永久歯の歯冠完成期と歯根形成初期の間の平均年齢に対応していた. (2) 乳歯歯根3/4吸収期の平均年齢は, 上下顎犬歯および下顎第二小臼歯を除いて, 各後継永久歯の歯根1/4形成期と歯根1/2形成期の間の平均年齢に対応していた. 5) 以上の結果をもとに, 日本人小児の暦年齢を基準にした乳歯歯根吸収の標準図表を作成した. この標準図表は, 乳歯の根管治療や咬合誘導などの日常の小児歯科臨床に有用な指針を与えうるものである.
- 1991-04-25
著者
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