口腔領域における分光測光の応用に関する研究 : 口腔粘膜について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
口腔粘膜病変の臨床診断において, 色調の診査は無侵襲で診断情報を得ることができるためその価値は高い. しかし, 診断時や経過観察において, 検者の主観, 記憶や判断力, 観察条件などによりその評価は客観性に欠けることが多い. そこで, 粘膜の色調の変化を客観的指標とするため, さまざまな測色法による数量化, すなわち, 視感比色法や三刺激直読法による表色値を用いた研究が行われてきた. 近年, 分光測光測定器を用い粘膜色を直接測色できる方法が開発され, 臨床医学においては胃粘膜や鼻粘膜病変などの診断に応用されている. しかし, 口腔粘膜病変について検討したものは少なく, 特に分光反射スペクトルパターンがどのような特徴を示すか, また, これを客観的指標として病変を分類する研究はほとんど見あたらない. 理由のひとつはスペクトルから得られる表色系による数値化に比べ, パターンそのものを客観化することに困難な点があったからだと考えられる. 今回実験的病変を用い, その分光反射スペクトルパターンから画像認識としての情報抽出の手段として, 波長軸からえられる10パラメータをそのパターンの判別のためのアイテムとし, 病変の分類を目的とした研究を進め, 脳波や心電図などですでに応用されている多変量解析の一つである判別分析の適用について検索した. 口腔粘膜における分光測光の応用として粘膜病変の性状の判別のための検討を行った. 実験はゴールデンハムスターの切歯骨歯槽粘膜に, 1) 30%H_2O_2貼付 (O群), 2) FC (formocresol) 貼付 (F群), 3) 70℃熱傷 (B群) による実験的白色口腔粘膜病変を作製し, また正常な粘膜 (N群) を含め4群の分光反射スペクトルを測定し試料とした. 測定は, 分光測光測定器 (大塚電子社製, 瞬間マルチ測光器MCPD-1000) とデータ処理装置 (日本電気社製, パーソナルコンピュータPC-9801RX) を組み合わせて使用した. 結果 1. 4群の分光反射スペクトルパターンのモード値を比較するといずれにも, 500〜600nmにかけてヘモグロビン特有のW字形のパターンがみられ, また各波長域においての違いが認められた. 2. 分光反射スペクトルの強度値512個よりパターンの特徴を示す変曲点やピーク10ポイントを選び, この10次元ベクトルをパラメータとした. 各群内での平均値の観察を行ったところ, パラメータの平均値の観察からパラメータは波形の特徴を表わしていた. 各パラメータにおける平均値について, 群間での比較を行ったところ, 特徴的な違いが認められた. 変曲点でのパラメータ間の反射強度差の絶対値を求め, その比較から, 各群においての特徴がさらに明確となった. しかし, 以上の所見から, スペクトルパターンのパラメータの変動によりそれぞれの特徴は認識できるが, 群を判別することには限界があった. 3. そこで多変量解析の一つである判別分析を行った. 判別分析の目的変数には, N群, O群, F群, B群の4群を用い, 説明変数にはスペクトルの特徴を表わす10次元パラメータの強度値を使用した. 判別関数は4群同時に判別するもの1個, 3群ずつ判別するもの4個, 2群ずつ判別するもの6個が得られた. その判別境界値から検討したところ, N群, O群, F群については, 群数の減少に伴い判別率は向上した. B群は, 群数に関係なく判別率は高かった. 以上のことから, 口腔粘膜病変の分光反射スペクトルパターンを観察し, パターンからパラメータ選択し, これを用いて判別分析をすることにより口腔粘膜病変の性状を分類できることが示唆された. これらは新たな診断情報となるものと考えられる.
- 1991-04-25