ペリクルとくにグリコプロテイン膜のイオン透過性について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ペリクルは, エナメル質に直接付与している無細胞性, 無構造の微生物の存在しない有機質被膜で, 主として唾液由来のグリコプロテインからなる. このペリクルには, 保護作用と有害作用の両面がある. 保護作用には, ペリクルの外部からエナメル質への酸の侵襲の防止ならびに各種遊離イオンのエナメル質から外部への拡散防止があるといわれている. 本研究は, エナメル質表面の状況を想定して設計したdiffusion chamberを用いて, ペリクルの主成分であるグリコプロテインの介在が水素イオン, カルシウムイオンおよびリン酸イオンの透過に与える影響を調べた. また, 脂質によるグリコプロテイン膜の物理化学特性, とくに疎水性および表面電位の変化が膜のイオンの透過性に与える影響をも検討した. 実験に用いた試料は, α_1-acid-glycoprotein (Sigma Chemical Co., St. Louis, MO) を4つの異なる濃度のグリコプロテイン (IGP) 膜 (1ml NaCl溶液当たり5mg, 10mg, 20mgおよび30mg), IGP膜と同じ濃度の脱脂グリコプロテイン (DGP) 膜4群, それに, 脱脂グリコプロテインにコレステロール (CH) (キシダ化学, 大阪) またはホスファチジルコリン (PC) L-α-phosphatidylcholine, Sigma Chemical Co., St. Louis, MO) を重量比で1 : 1, 2 : 1に加え結合させたものを1ml NaCl溶液あたり5mgを調整した4群とした. これらの膜の水素イオン, カルシウムイオンおよびリン酸イオンの透過性について検討した. 対照膜には, 0.155M NaClを用いた. また, グリコプロテイン膜の疎水性および表面電位の測定は, 蛍光プローブANS (8-anilino-1-naphthalenesulfonate, 東京化成工業, 東京) を用いた. その結果, 次のような所見を得た. 1) 対照膜に比較して, いずれの濃度においても, IGP膜のイオン透過速度は低かった. グリコプロテイン濃度が高くなるにつれてIGP膜のイオン透過速度は低下した. 2) 同じグリコプロテイン濃度のIGP膜とDGP膜の比較では, IGP膜はDGP膜よりもイオン透過の阻止性が高かった. 3) 多量のCHの含有により, グリコプロテイン膜のイオン透過速度は高くなった. 4) PC含有濃度が高くなるにつれて, グリコプロテイン膜のイオン透過速度は低くなった. 5) CH膜よりもPC膜がイオン透過の阻止性が高く, 脂質の種類による差を認めた. 6) 脂質含有によりグリコプロテイン膜の疎水性が高くなったが, CH膜よりもPC膜に高い疎水性を認めた. 7) CH膜よりもPC膜は高い表面電位を認めた. CH含有量が多いと, 表面電位は低くなり, PC含有量が多いと, 表面電位は高くなった. 以上の結果から, グリコプロテイン膜は, 水素イオン, カルシウムイオンおよびリン酸イオンの透過を阻止することがわかった. さらに脂質含有は, グリコプロテイン膜の性状に影響を与え, イオンの透過に重要な役割を果たすことも示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1991-04-25
著者
関連論文
- ペリクルとくにグリコプロテイン膜のイオン透過性について
- 3 ペリクルとくにグリコプロティン膜のイオン透過性について (第398回 大阪歯科学会例会)
- ペリクルとくにグリコプロテイン膜のイオン透過性について