根管充填用シーラーによる組織反応および可溶性蛋白質の電気泳動的変化に関する研究
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概要
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根管充填用シーラー (以下, シーラーと略す) の刺激性に関する報告はこれまでにも多数みられるが, 根管の形成や歯髄腔の封鎖などの実験手技に困難な点があり, シーラーの組織刺激性については一致した結果が得られていない. そこで, 実験操作による機械的刺激や感染の危険性が少ない皮下注入法によって, 生体組織に対するシーラーの影響を病理組織学的に検索した. また, シーラーの作用で変性した根管内滲出液中の蛋白質が根尖歯周組織に疾患を引き起こすような, 間接的な組織為害性を検索する目的で, シーラーによる蛋白質の変性を電気泳動的に検索した. 実験材料および方法 不実験ではTubli-seal (Kerr社製), Sealapex (Kerr社製), CRCS (Hygenic社製), Endo-fill (Lee社製), および, Dentalis KEZ (ネオ製薬工業社製) について検索した. これらのシーラーを製造者の指示通りに練和した直後に, 体重約230gの雄性SD系ラット25匹の背部皮下組織内にツベルクリン針で約0.05mlを注入した. 12時間, 1, 2, 4および7日後に動物を屠殺し, 摘出した組織を10%中性緩衝ホルマリンで固定後, 通法により5〜6μmのパラフィン切片を作製して, ヘマトキシリン-エオジン染色あるいは免疫組織化学的染色を施して病理組織学的検索を行った. また, 練和直後の各シーラーあるいはそれらの主要成分を37℃の飽和水蒸気中で3, 6, 12, 24, 48および96時間浸漬させたウシ血清の血漿蛋白質分画の変化を, SDSを含む5%ポリアクリルアミドゲルを用いたディスク電気泳動法によって検索した. 結果および考察 Tubli-sealでは, 周囲組織に認められた充血をともなう軽度の炎症と狭い範囲の壊死は速やかに消退し, 線維性組織でシーラーが被包された. 血漿蛋白質に対する影響は軽微に認められたのみであった. Tubli-sealは短時間で硬化して成分がほとんど溶出しないために, 組織刺激性が少ないものと推察された. Sealapexは周囲組織を早期に広範囲に壊死させ, 強い組織刺激性を示した. 組織の修復はかなり遅延する傾向が認められた. 基剤を浸漬した血漿蛋白質は著しく変性しており, 水酸化カルシウムが溶出してpHが上昇した結果と考えられた. 練和後のSealapexを浸漬した血漿蛋白質の変性はやや少なく, 基剤と硬化剤との反応による硬化が組織刺激性を減弱させるうえで重要であることが示唆された. CRCSでは周囲組織に広範囲な壊死が観察されたが, 細胞の浸潤と線維性結合組織による被包化がSealapexより早期に認められ, 水酸化カルシウムによるpHの上昇が比較的少ないものと考えられた. 練和後のCRCSによる血漿蛋白質の変性は基剤あるいは硬化剤より著明で, 完全に硬化しない可能性が示された. Endo-fillは周囲組織に著しい刺激性を示す所見は得られず, 速やかに線維性組織で被包された. 電気泳動的にも可溶性蛋白質に対する影響はほとんど認められなかった. Dentalis KEZは初期に強い刺激性を示し, 周囲組織が広範囲に壊死したが, 後に密な線維性結合組織の厚い層で被包された. 完全に硬化せず, 組織を傷害しない程度の軽微な刺激性が持続すると考えられた. 血漿蛋白質に対する影響は軽微であった. 今回の実験から, Tubli-sealとEndo-fillは組織刺激性の少ないシーラーであることが明らかになった. Sealapex, CRCSそしてEndo-fillはいずれも初期に強い組織刺激性を示したが, なかでもSealapexは最も強い組織刺激性を示した. これらは血漿蛋白質をaggregateさせており, 間接的に根尖歯周組織疾患を引き起こす因子となる可能性が示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1990-08-25