ヒト歯肉溝液および唾液の局所生体防御機構 : とくに分泌型IgA濃度とマウスリンパ球幼若化促進作用について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
歯肉溝液や唾液などの口腔分泌液には, 血奨や宿主細胞に由来する多様な生物活性物質が存在し, ある種の活性物質は口腔粘膜の局所防御機構に関与することが示唆されている. インターロイキン1はリンパ球活性化作用をはじめとして, 多彩な免疫応答の調節因子として役割を担っているが, インターロイキン1様活性物質が上皮細胞や歯肉由来線維芽細胞の培養株から産生されることや歯肉溝液に存在することが報告されている. 一方, 口腔粘膜での体液性免疫応答はおもに分泌型抗体が担っている. 分泌型抗体の産生系については, 近年, 細胞レベルの免疫調節機構の研究が進むにつれて, リンパ球の循環, 活性化, 分化, 胸腺との関連が明らかにされ, 単に体液性免疫系の一分枝としてではなく, 直接, 外界と接する粘膜において, 外来異物の生体侵入を防ぐ局所免疫を担当するユニークな一体系としての存在意義が確立されつつある. このような現況から, 本研究は, ヒトの歯肉溝液と唾液の分泌型抗体濃度およびマウスリンパ球に対する幼若化促進作用への効果を測定することにより, 局所生体防御機構におけるこれら口腔分泌液の役割を比較し, 検討した, なお, 歯肉溝液はSkapskiおよびLehnerの方法に準じた歯肉溝洗浄法により採取し, 唾液は食後約2時間後に自然に流出する全唾液を採取し, それぞれの遠心上清を実験試料とした. 分泌型IgA濃度は, 酵素標識抗体としてIgA抗体あるいは分泌片抗体を用いる各エンザイムイムノアッセイにより測定した. また, リンパ球の幼若化を促進する作用は, C57BL/6NおよびBALB/cAの2系統の近交系マウスの脾細胞に対するDNA合成量 (細胞内への^3H-チミジンの取り込み) から測定した. 分泌型IgA濃度は, 唾液では169.8±76.28μg/ml, 血清では唾液の1/30量 (5.38±3.15μg/ml) 検出されたが, 歯肉溝液では検出されなかった. 唾液と血清の両分泌型IgA濃度に相関関係は認められなかった. また, 分泌型IgA濃度は, 唾液では女性に比べ男性のほうが高かったが, 血清では性差は認められなかった. 培養リンパ球の^3H-チミジンの取り込み量は, 培養液のみの対照に比べ唾液や血清添加ではほとんど増加しなかったが, 歯肉溝液添加では著明に増加した. このことから, 歯肉溝液添加はDNA合成量を指標としたリンパ球の幼若化を促進することが確認された. DNA合成は, 無希釈から2^<-2>希釈の範囲の歯肉溝液を添加したときに著明に促進され, その効果は歯肉溝液の濃度に依存的であった. 歯肉溝液を培養早期に添加し, リンパ球との接触時間を長くするほどDNA合成効果は高くなった. また, 病的な歯周組織由来の歯肉溝液添加では, 健全な歯周組織由来の歯肉溝液添加よりDNA合成は高くなった. 歯肉溝液のリンパ球DNA合成促進に対する作用動態には, C57BL/6NおよびBALB/cAマウスの主要組織適合抗原系の相違によって差異が認められた. 以上のように, 歯肉溝液にはリンパ球に対する幼若化促進作用が認められ, 分泌型抗体の存在が認められないことから, 局所生体防御に対して, 歯肉溝液は唾液とは異なった役割を担っていることが確認された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1990-08-25
著者
関連論文
- 3 ヒト歯肉溝液および唾液の局所生体防御機構 : とくに分泌型IgA濃度とマウスリンパ球幼若化促進作用について (第389回 大阪歯科学会例会)
- ヒト歯肉溝液および唾液の局所生体防御機構 : とくに分泌型IgA濃度とマウスリンパ球幼若化促進作用について
- ヒト歯肉溝液および唾液の局所生体防御機構 : とくに分泌型IgA濃度とマウスリンパ球幼若化促進作用について