顎口腔領域の刺激が前頭皮質ドーパミンに与える影響およびNMDA受容体の関与について(大阪歯科大学大学院歯学研究科博士(歯学)学位論文内容要旨および論文審査結果要旨の公表)
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概要
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前頭皮質のドーパミンニューロン系は侵害刺激や全身への非侵害刺激による情動反応によって機能亢進することが知られている.NMDA受容体は, 興奮性シナプス伝達を担うグルタミン酸受容体の一つで, 前頭皮質などに存在する.痛覚伝達にはNMDA受容体が関与しているが, 顎口腔領域の侵害刺激と全身への非侵害刺激については, 前頭皮質のNMDA受容体にいかなる影響を与えるかは知られていない.著者は脳内微小透析法を用い, 顎口腔領域の侵害刺激と全身への非侵害刺激が前頭皮質にどのように影響しているか, NMDA受容体がいかに関与しているかを明らかにする目的で, NMDA受容体の非競合的拮抗薬であるMK-801をdual-probeにより前頭皮質内に投与することにより, 前頭皮質ドーパミン(DA)量の変化を経時的に, in vivoで検討した.方法 1.刺激による前頭皮質DA量変化について 実験I:前頭皮質DA量の変化を検討した.1)予備実験 顎口腔領域の侵害刺激を与えるためクリップをラット口唇に挟むとき, 体動による透析膜の破損をきたすので, 2%イソフルランによる2分間の全身麻酔後にクリップを装着した.全身への非侵害刺激として強制遊泳をさせた.イソフルラン麻酔がDA量に及ぼす影響, および全身麻酔が強制遊泳時のDA量に及ぼす影響を検討した.2)本実験 クリップ装着と強制遊泳は以下の条件下で与え, 刺激後のDA量の推移を検討した.2分間の全身麻酔のみ行い, その全身麻酔の影響のみを観察した群(全身麻酔後群), 全身麻酔から覚醒後, 強制遊泳を負荷した群(全身麻酔後+遊泳群), 全身麻酔下でククリップを装着した群(全身麻酔後+クリップ群), 全身麻酔下でクリップを装着し, 覚醒後, 強制遊泳を負荷した群(全身麻酔後+クリップ+遊泳群)とし, 比較検討した.2.刺激に対する前頭皮質NMDA受容体の関与について 実験II:MK-801を前頭皮質内に投与し, 実験Iと同様の実験を行った.結果 実験I:予備実験において遊泳群のDA量は, 対照値と比較して刺激開始20分後に144%まで有意に増加し統計学的に有意であった.全身麻酔後+遊泳群は, これよりも上昇時間は遅く100分後に147%に上昇した.本実験において全身麻酔後+クリップ群は, 60分後までに160%と上昇したが, 以後有意差を示さなかった.全身麻酔後+クリップ+遊泳群は, 60分後に148%と上昇し, 以後有意差を示した(p<0.05).実験II:予備実験において遊泳群のDA量は, 対照値と比較して刺激開始40分後に, 142%まで有意に増加した.全身麻酔後+遊泳群は, 160分後で120%と有意に増加した.本実験において全身麻酔後+クリップ群のDA量は, 対照値と比較してクリップ装着開始100分後で119.3%, 120分後で115.3%, 140分後で117.2%と増加し, 統計学的に有意差を示した.全身麻酔後+クリップ+遊泳群は, 40分後に116%と上昇, 以後下降することなく統計学的に有意差を示した(p<0.05).結語 1.全身への非侵害刺激すなわち長時間にわたる不安, 緊張, 恐怖などの不快感を患者に与えることは, 反応が遅く持続時間が長いストレスを与える可能性がある.2.顎口腔領域の侵害刺激すなわち歯科治療時の直接的な侵襲による疼痛は, 反応が早く持続時間の短いストレスを与える可能性がある.3.全身への非侵害刺激と顎口腔領域の侵害刺激を併用することによって, DA量は相加的に上昇した.つまり長時間にわたる歯科治療時の情動反応によりストレスを与える可能性があることが示された.4.ラット前頭皮質のNMDA受容体は, 全身への非侵害刺激に対するDA反応に関与していることが示唆された.5.ラット前頭皮質のNMDA受容体は, 三叉神経を介する侵害刺激に対する反応にも関与していることが示唆された.
- 2000-06-25
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