歯列咬合接触に与える歯への加圧の影響
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概要
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日常臨床における歯冠補綴物の咬合調整や天然歯の咬合診査には, 咬みしめなどによって歯に垂直的な荷重が加わる. その結果, 顎骨各部に生じる歪や歯列を含む顎骨の変形によって歯の変位が起こり, 咬合接触状態が変化することが予想される. 従来, 加圧時あるいは機能時における歯の変位に関する報告は多いが, 加圧変位後の歯の動態を経時的に観察した報告は少なく, さらに咬合接触面積の変化としてとらえた研究はほとんどない. 歯が変位している状態では, 咬頭嵌合位での適正な咬合接触状態を得ることができないことから, 咬合診査の信頼性および再現性に問題が生じるものと考える. 咬台紙法のような日常臨床でよく行われている咬合診査のように, 診査法の精度によってはとくに影響を受けにくい場合もあるが, add画像法のような, 高い精度の咬合診査法において歯の変位の影響は大きい. 本研究では, 歯への加圧が歯列咬合接触に与える影響について検討するために, 加圧力および加圧時間を変化させた場合の加圧後の歯の動態を, add画像法を用いて咬頭嵌合位における咬合接触面積の変化としてとらえ経時的に観察した. そして, 臨床における咬合接触診査, とくに咬みしめ強度に対する注意の必要性について検討した. 被験者として顎口腔系に異常のない, 健常有歯顎者7名を選んだ. 被験歯は, 上顎左側第一大臼歯とした. 被験歯に1分間の最大咬みしめおよび5分間, 1分間の中等度咬みしめを日を改めて行わせた. そして加圧前, 加圧終了直後, 加圧終了2, 4, 6, 8, 10, 15, 20分後にそれぞれ咬頭嵌合位におけるシリコーン・ブラックを採得した. また, シリコーン・ブラック採得時の咬みしめ強度(以下咬みしめ強度とする.)は, 最大随意収縮時における被験歯と同側の咬筋表面EMG出力のRMS 値を記録し, その30%と10%(以下30%MVCおよび10%MVCとする.)とした. 咬合接触状態の観察および咬合接触面積の測定は, add画像法を用いて行い, 上下顎歯間距離すなわち intraocclusal distanceが, 10μm以下および30μm以下を咬合接触とした. 上顎全歯列を測定対象とし, まずadd画像による視覚的観察を行った. 次に被験歯を除いた歯列の咬合接触面積と被験歯の咬合接触面積を求めた. その結果, 以下の知見を得た. 1. add画像法によって, 加圧後の歯の経時的な動態を咬頭嵌合位における咬合接触面積の変化としてとらえることができた. 2. 被験歯に加圧を行っても, 被験歯以外の咬合接触状態に変化はなかった. 3. 1分間の最大咬みしめおよび5分間の中等度咬みしめでの被験歯への加圧条件では, 咬みしめ強度が30%MVCにおいて加圧終了直後の被験歯の咬合接触面積は, 加圧前に比べて有意に減少した. 4. その後, 加圧終了2分後までに有意に増加し, 加圧終了2分後以降の咬合接触面積は, 加圧前とほぼ同じにまで回復した. 5. 1分間の中等度咬みしめでの加圧後の被験歯の咬合接触面積は, 加圧前に比べて統計学的有意差は認められなかった. 以上のことから, 歯列内に局所的な荷重が加わった場合, シリコーン・ブラック法を用いた咬合診査では, 咬みしめ強度が強すぎないように注意し, かつ再度診査を行うにあたっては, 十分な時間間隔をおく必要があることがわかった.
- 1996-09-25
著者
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