ヒト乾燥頭蓋骨におけるオトガイ帽装置の顎顔面頭蓋に及ぼす歪分布
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概要
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上下顎骨の不調和を伴う成長発育期の下顎前突症患者に対してオトガイ帽装置による顎整形力を用いてその不調和の改善を行うことがある. この顎整形力は下顎骨に伝達されて下顎頭に形態的な変化を生じさせるとともに関節窩を通じて頭蓋の縫合部に形態的な変化を引き起こすことは組織学的に証明されている. しかし, この変化に対する力学的研究は少なく, その対象もオトガイ部から下顎頭方向の牽引に限られ, 歯列弓による影響を考慮した報告は現在まで見当たらない. そこで, オトガイ帽装置の牽引方向の違いによる顎顔面頭蓋骨に及ぼす影響とこの装置による歯列弓の影響を比較するために臼歯部開口部についても検討した. 研究方法 Hellmanの developmental stage III Bに属する混合歯列期の小児乾燥頭蓋骨1体と上顎第二大臼歯まで萌出している成人乾燥頭蓋骨1体を用いた. 乾燥頭蓋骨を前処理したのち, 頭蓋全縫合部および歯根膜空隙ヘセメダイン1565を注入した. Chin cap (421-13, Tomy, 東京)の形態は, 小児頭蓋骨で幅3.5cm, 高さ2.0cm, 成人頭蓋骨で幅4.5cm, 高さ2.5cmに形成した. この chin capの両側に, ループ状に屈曲した直径1.2mmのサンプラチナ矯正用ワイヤーを埋め込み, これを即時重合レジンで頭蓋骨のオトガイ部に適合させた. 頭蓋骨は左右関節窩に均等に荷重が加わるように, 下顎オトガイ部と下顎頭を結ぶ仮想線が基底面に対して垂直で, 左右下顎頭と基底面との垂直距離が等しくなるように即時重合レジンで固定台に接着した. おのおのの頭蓋骨に三軸ロゼットゲージを19か所接着した. 牽引方向は, オトガイ部より下顎頭方向を基準とし, オトガイ部から上方に10゜, 20゜の3方向とした. さらに, 臼歯部での咬合面の影響を検討するために前歯部にシリコン印象材を介在させて臼歯部を開口位とし, 咬頭嵌合位と開口位に分けて計測した. 荷重量は, 骨がクリープ現象を起こさず, 反復荷重に耐え得る範囲で, 荷重-歪曲線において完全に Hookeの法則が成立している範囲として, 小児頭蓋骨では3kg, 成人頭蓋骨では6kgを用いた. 歪測定には, デジタルメータとスキャナを使用した. 結果および考察 オトガイ-下顎頭方向の荷重において, 咬頭嵌合位と開口位では歪分布方向の差異はほとんど認められなかったが, 側頭骨周辺部, 下顎角および下顎頭では開口位が咬頭嵌合位よりも歪量が大きかった. これは開口位では下顎臼歯部から歯を介しての上顎歯槽部への力の伝達がないためオトガイ部に与えられた力が下顎頭を介して側頭骨に伝わり, 側頭骨に隣接する縫合部にまで伝達されたことを意味している. 側頭骨周辺部では成人および小児頭蓋骨を問わず, オトガイ-下顎頭方向の荷重においで咬頭嵌合位および開口位で, ほぼ関節窩を中心とした放射状の圧縮歪が認められた. これは, 側頭骨がわずかに反時計まわりに回転しながら後上方へ押し上げられていると考えられた. また, 咬頭嵌合位では, 牽引方向の上方成分が増すにつれて放射状の圧縮歪みの中心が前方に移動したと考えられ, 側頭骨は後上方に押し上げられていると考えられた. 上顎肯周辺部において, 咬頭嵌合位では Frankfort horizontal (以下FHと略す.)平面に対し後上方の圧縮歪が認められ, 牽引方向の上方成分が増すにつれて歪量は増加し, 成人では歪方向がより垂直方向となった. 下顎骨において, オトガイ部より下顎頭方向への圧縮歪が認められたが, 咬頭嵌合位では下顎歯槽骨での歪方向は牽引方向の上方成分が増すにつれて FH平面に対してより垂直方向となった. 以上のことから, オトガイ帽装置は下顎頭を介してだけでなく, 臼歯部咬合面からも顎顔面頭蓋ヘ影響を与えることが明らかとなった. また, 牽引方向の違いにより顎顔面頭蓋へのカの伝達部の中心が移動すると考えられ, それによる下顎肯の回転力向および顎顔面に与える影響に違いがあることが示唆された.
- 1996-09-25
著者
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