有限要素法による乳前歯外傷時の応力解析 : 上顎乳前歯歯根吸収程度による影響について
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概要
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小児の歯の外傷は, 乳歯が萌出した時期から発現し, 1〜2歳が統計上で最も頻度が高くなるといわれている. しかし, 乳歯の外傷は, 乳前歯が脱落する6歳頃まで受傷する機会が続くことになる. また, 歯の外傷は, 乳前歯の歯根完成時には乳歯根の陥入や脱臼などにより歯周組織に損傷を及ぼすだけではなく, 後継永久歯にも大きな影響を与えることがあり, 乳歯根が吸収する年齢になっても後継永久歯への影響があると記載されている. そこで, 今回, わたくしたちは, 小児期によく発現する上顎乳中切歯の外傷について, 乳歯根の吸収程度の相違により乳中切歯, 歯周組織および後継永久歯がどのように影響を受けるかについて, 有限要素法を用いて外傷時の乳前歯, 歯周組織および後継永久歯歯胚の変位および応力の発現変化を解析し, 外傷の損傷様式を探究する目的で研究を行った. 被験者資料は, 正常な乳歯列を有する小児を対象として, 上顎乳中切歯の歯根の吸収程度が相違する時期を選定して, 側方頭部エックス線規格写真を撮影後トレースを行った. エックス線写真のトレース後, 上顎乳中切歯の歯根吸収がまったくないものをグループURAとし, 115個の節点と171個の三角形要素に, 歯根吸収が1/3部分に及ぶものをグループURBとし, 96個の節点と155個の三角形要素に, および歯根吸収が1/2部分に及ぶものをグループURCとし, 91個の節点と145個の三角形要素にそれぞれ分割し, 上顎乳中切歯, 歯周組織, 上顎骨および後継永久歯歯胚からなる二次元有限要素法モデルを作成した. 外傷による荷重部位および方向の分類として, 上顎乳中切歯唇面の中央部で歯軸に対して90゜に荷重したものをL1, 口蓋面の切端側1/3部で歯軸に対して-45゜に荷重したものをL2, 唇面の切端側1/3部で歯軸に対して45゜に荷重したものをL3, および切端部で歯軸に対して0゜に荷重したものをL4の4つとした. なお, 荷重量は, 小児咬合力などを考慮した10kg童(約100N)とした. 有限要素法の解析は, 京都大学大型計算機センター(FEM IV)にて行ったのち, 有限要素法モデルの変位図および応力図を作成し, 外傷時の歯根吸収程度や荷重部位の相違による歯, 歯周組織および永久歯歯胚の変位および応力の動向を比較検討した. その結果, 1.外傷による外力の唇側荷重は, 歯および歯槽骨を口蓋側に変位させ, 口蓋側荷重は, 歯および歯槽骨を唇側に変位させ, 切端荷重は, 歯および歯槽骨を陥入側に変位させた. 2.外傷による外力の唇側, 口蓋側および切端荷重は, 歯根吸収が強くなるほど, 歯, 歯槽骨および永久歯歯胚の変位を強くさせた. 3.外傷による外力の唇側, 口蓋側および切端荷重は, 歯根吸収が強くなるほど, 歯槽骨の応力を高くさせるが, 歯および永久歯歯胚の応力には変化がなかった. 以上のことより, 上顎乳前歯の外傷は, 歯根吸収程度により歯, 歯槽骨および永久歯歯胚の損傷様式に特異性があることが示唆された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1996-06-25
大阪歯科学会 | 論文
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