歯性感染症における細菌の β-lactam薬耐性化に関する研究
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概要
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歯性感染症は内因感染症であり, 嫌気性グラム陰性桿菌が優位に分離され, 種々の病原酵素活性が高い菌株も存在することより, 発症・進展および膿瘍形成にこれら細菌が深く関与していると考えられている. 歯性感染症の治療として抗菌薬が使用され, なかでも β-lactam其の使用頻度が高いため, β-lactam薬耐性菌の出現は難治化の一因となる. 本研究では, 歯性感染症における β-lactam薬耐性嫌気性グラム陰性桿菌の出現機構を解明するため, 口腔常在菌叢中の耐性菌検出と歯性感染症より分離した感受性菌の耐性化について検討した. 材料および方法 口腔常在菌叢中の β-lactam薬耐性嫌気性グラム陰性桿菌は, 成人50名より採取した安静時唾液をCCL選択培地に塗抹・嫌気培養後, コロニー1〜6個をグラム染色および好気培養し, 分離した. 感受性菌の耐性化は, 歯性感染症より分離した β-lactamase産生・β-lactam薬耐性 Prevotella intermedia を donor, β-lactamase非産生・β-lactam薬感受性 Bacteroides capillosusを recipient として filter mating法にて β-lactam薬耐性因子の伝達を行い, 100μ9/ml CCL添加培地にて発育した非黒色コロニーを transconjugantsとして選択し確認した. 菌種は黒色色素産生性グラム陰性桿菌についてはマイクロプレートハイブリダイゼーション法で, それ以外については Bergey's manual of systematic bacteriology に従って同定した. β-Lactamase産生性は nitrocefin法で, β-lactamase活性はUV法で, 最小発育阻止濃度(以下MICと略す.)は微量液体希釈法でそれぞれ測定した. Plasmidの有無は alkaline extraction法で確認した. 結果および考察 常在菌叢中の β-lactam薬耐性嫌気性グラム陰性桿菌は50名中46名から91株分離され, 同定の結果, P. melaninogenica, P. intermedia などの黒色色素産生性菌が多かった. β-Lactamase産生株は91株中88株で認められた. MICはすでに報告されているABPC耐性菌の分離頻度が高い歯性感染症2症例の値に類似していた. したがって, 歯性感染症の発症時にはこれらの菌株が菌交代症の中心となり薬剤耐性化に関与すると考えられる. Filter mating法で耐性因子を伝達したところ, 7.9×10^<-5>の頻度で感受性菌が耐性化した. 得られた transconjugantsより任意に5株の性状を調べたところ, すべて β-lactamase産生性を示し, 酵素活性はdonorより増加し, また, MICも recipientに対するそれよりいずれの薬剤においても大きかった. このことは病巣内でも感受性菌が耐性化し得ることを示唆している. Plasmidは常在菌叢由来91株中18株から検出されたが, その大きさ, 個数は一定でなく, 残りの菌株から検出されなかった. また, 耐性因子伝達時に plasmidを確認できなかったことからこの耐性因子の伝達は 非Plasmid性と考えられる. 以上の事実か5, 歯性感染症における嫌気性グラム陰性桿菌の β-lactam薬耐性化には, 常在菌叢中に β-lactamase産生・β-lactam薬耐性株か存在すること, 非plasmid性の β-lactam薬耐性因子が細菌間で伝達される可能性があること, および投与薬剤により耐性性が選択され, その構成比率が増加するとともに, β-lactamase高度産生・β-lactam薬耐性株になることなどが複合して関与することが推定された.
- 大阪歯科学会の論文
- 1996-06-25
大阪歯科学会 | 論文
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