遊離端義歯床下粘膜への実験的局部加圧が咀嚼筋筋電図に及ぼす影響
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概要
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遊離端義歯装着者において, 義歯床下粘膜の感覚は歯根膜感覚とともに下顎運動の調節に関与していると考えられる. 歯根膜感覚が下顎運動に及ぼす影響に関しては以前より数多くの研究がなされてきた. しかし歯肉粘膜の感覚が下顎運動に及ぼす影響についての研究はほとんど行われておらず詳細は不明である. そこで本研究では遊離端義歯装着者に対して, 床下粘膜の感覚が下顎運動に及ぼす影響を知る目的で, 遊離端義歯装着者の床下粘膜を実験的に局部加圧したときの咀嚼筋筋電図への影響を分析した. 被験者は下顎片側遊離端欠損患者6名で, 義歯装着後1か月以上経過し経過が良好な者を選択した. 床下粘膜を局部加圧するためにプラスティック材で作製した円板状の加圧プレートを現在使用している義歯の下顎第一大臼歯に相当する義歯床粘膜面で歯槽頂部から頬側に向かって接着し, 粘膜の局部加圧を試みた. 加圧プレートは明らかな疼痛が生じないことを確認した2種類の直径および2種類の厚みの組み合わせの4種類を使用した. 被検運動はタッピング運動とした. すべての加圧条件の試行はランダムな順で行い, 2回くリ返した. またコントロールは何も介在しないときの運動とした. 筋電図は義歯側および対側の咬筋中央, 側頭筋前部から銀製皿電極にて電極間距離15mmで双極誘導し, 生体電気増幅ユニットにて増幅後, MKG K-6を使用して記録した切歯点の顎運動動径とともにポータブルデータレコーダに記録した. 筋電図データはMKGの垂直成分とともにサンプリング周波数2kHzでAD変換した. 各ストロークともMKGの垂直成分を参考に上下顎の歯の接触時点(TC)を求め, これを基準に筋活動を2分した. 筋電図は時間要素および積分値要素について試行開始から20ストロークを対象に計測を行った. 時間要素は筋活動周期, 筋活動間隔, 筋活動持続時間, TC前および後の筋活動持続時間について計測を行った. 得られたデータは分散分析法によって統計処理した. 床下粘膜を局部的に加圧することで以下の結果を得た. 筋電図時間要素から筋活動周期には実験条件間に有意な差はみられないものの, 筋活動間隔は短縮し, 筋活動持続時間は延長した. また筋活動持続時間の延長はTC以前の筋活動持続時間の延長によることが分かった. また筋電図時間要素の変異係数が有意に大きい値をとった. 一方収筋および側頭筋の筋電図積分値は有意に減少した. とくにTCよりあとの積分値が有意に減少した. また側頭筋においてはTCより前の筋活動量をコントロールに対する比として示すと, 義歯側筋活動は抑制され, 対側筋活動は促進された. このことは床下粘膜を局部加圧することにより下顎の閉口運動中の筋活動パターンの変化が考えられ, 床下粘膜への局部加圧をさけるような新しい下顎運動の修正に関与している可能性が示唆された. また側頭筋および咬筋のTCよりあとの筋活動量が減少したことは上下顎の歯が接触している間の筋活動の抑制を示しており, 咬合力の低下を示唆するものである. 本研究結果より, 遊離端義歯の床下粘膜への痛みを伴わない局部加圧においても, 咀嚼筋筋電図にさまざまな影響を及ぼすことが明らかとなり, 有床義歯装着者において床下粘膜からの求心性情報は下顎運動の調節や咬合力の発現に関与していることが立証された. さらに臨床的には義歯と床下粘膜の適合性診査の重要性が筋電図学的に裏付けられた.
- 大阪歯科学会の論文
- 1996-06-25
大阪歯科学会 | 論文
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