試作タンニン酸誘導体を用いた象牙質接着システムの接着性能と抗菌効果について
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概要
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コンポジットレジン(以下CRと略す.)修復は, 接着をはじめとしてあらゆる面でめざましい進歩を遂げた. しかし, エナメル質と象牙質という2つの異なる組織に対してバランスの良い接着を得るためには, まだまだ多くの課題を残している. また CRあるいは接着システムに抗菌性が少ないため, 二次齲蝕の危険性についても問題がある. 本研究では, 試作タンニン酸誘導体(以下TADと略す.)を象牙質接着におけるプライマーとして使用し, 酸処理を行った象牙質の脆弱層形成の抑制, 露出コラーゲンの強化による接着強度への効果, および二次齲蝕および歯髄刺激の原因である細菌に対する抗菌効果について検討した. 実験材料および方法 TADはタンニン酸メタクリロイル化反応物(TAD 1), 没食子酸メタクリル酸グリシジルエステル反応物(TAD 2), 没食子酸 HEMA反応物(TAD3)の3種で70%エチルアルコールに溶解して用いた. 接着試験は, ウシ歯象牙質に形成した被着面にTADを処理したのち, 象牙質接着システム Pyrofil Light Bond (三金)を用いてCRを接着させて行った. 接着の完了した試料体は, 37℃水中に24時間, 1か月, 3か月および6か月間保存し, 作用手順変化群, 濃度変化群, 長期浸漬群に分け, 引張接着強度(以下TBSと略す.)を測定し, 危険率5%でtー検定を行った. 接着試験では引張試験後の破断面を走査型電子顕微鏡(以下SEMと略す.)により観察した. 抗菌性は濾紙法による阻止円の大きさ, 液体培養による生菌数の測定, TAD添加MMAに付着した細菌数から判定し, さらにSEMにより細菌の形態変化を観察した. 抗菌性試験に供試した菌株は, Escherichia coil (E.coil), Staphylococcus aureus (Staph aureus), Streptococcus cricetus (Str. cricetus) HS-6, E49, AHT, Streptococcus sanguis (Str. Sanguis), Streptococcus mitis (STR. mitis), Enterococcus faecalis (Ent. faecalis), Bacillus subtilis (B. subtilis)を使用した. 結果および考察 1. リン酸処理後に5分間以上TADを作用させた条件と, リン酸処理前に24時間TADを作用させた条件において, 対照に比べて TBSは60kgf/cm^2以上に有意に向上した. 2. TAD 2, 3は濃度(5〜20%)と比例して TBSは向上し, とくに TAD2の20%が最大を示し, 78±10kgf/cm^2となった. 3. 長期間水中浸漬した試料での TBSの経時的変化は, TAD2, 3処理試料とも1, 3か月間の浸漬での TBSの有意な低下はなかったが, 6か月間では有意に低下した. 4. 濾紙法では, Str. mitis,Str. mutans, Rm-10, Str. sanguis, Ent. faecalisに対して, TAD2, 3は高い抗菌性を示し, 濃度と比例して抗菌性が向上した. 5. TAD示加 TSBに E. coil, Staph. aureus, Str. cricetus, HS-6を接種後, 生菌数を測定すると, 対照の70%エチルアルコールのみよりTAD示加の場合に生菌数が減少し, さらに SEM観察により供試菌の変性像が認められた. 6. TAD添加MMAレジンに E. coil, S. aureus, Str. cricetus, HS-6を付着させたとき, 対照に比べて付着菌数が減少し, SEM観察により供試菌の変性像が認められた. 結論 以上のことから, TADを象牙質接着プライマーとして使用すると, リン酸処理した象牙質へのボンディング剤の浸透性の増加, 脆弱層形成の抑制, および露出した象牙質コラーゲンを強化することが考えられ, また, TADが, 口腔内細菌に対して抗菌性を示すことから, 接着界面における細菌の活動を抑制する可能性が示唆された.
- 1996-06-25
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