脳静脈還流障害による頭蓋内圧環境の変化と脳表血管の反応態度 : 病因による相違について
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概要
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脳静脈還流障害に起因する脳静脈血鬱滞は, 頭蓋内圧(ICP)亢進の一因子であり, 麻酔管理上でも, その制御について注意が払われている. しかし, 頭蓋腔の内圧環境を検討した過去の研究の多くは, 平均環境圧ともいうべきICPのみを指標として論じたもので, 病態を詳細に検討した報告はみられない. そこで, 本研究は, 実験動物を用いて脳静脈還流障害を原因とする二種類の同程度のICP亢進状態を作製し, 病因の違いにより内圧環境がどのように相違するかを, 頭蓋腔の圧-容量関係と脳脊髄液(CSF)吸収動態の面から検討した. さらに, 脳表血管の形態変化が背景因子としてどのように病態形成に関与するかについても検討を加えた. 実験材料および方法 1.頭蓋内圧環境の変化 実験動物は, ペントバルビタール・エンフルラン・笑気・酸素で麻酔したネコ28匹を用いた. 動脈圧, 矢状静脈洞圧(SSP)を測定したうえで, 側脳室圧を記録しICPとした. 脳静脈還流障害として, 静脈洞閉塞群(A群), 頭部低位群(B群)の二群を, さらに, 頭蓋内占拠性病変によるICP 亢進モデル(C群)も作製し, 三群間の病態を比較した. 方法は, A群では, 各測定諸値が安定したのちに静脈洞交会前方部で矢状静脈洞を閉塞させ, この時のICP, SSPの変化を観察した. その後, 側脳室内留置針を介して人工CSF 0.3mlを頭蓋腔内にbolus injectionし, ICP変化から頭蓋腔コンプライアンス(C), pressure-volume index (PVI), CSF流出抵抗(Ro)を求めて頭蓋内圧環境を評価した. B群では, 体幹傾斜で頭部を低下させることで, また, C群では, 硬膜上に留置したバルーンを膨張させることで, それぞれA群と同程度のICP上昇となるようにして, 同様の方法でC, PVI, Roを算出した. さらに, A群では脳浮腫発生の有無を知るために, 実験終了後に脳組織水分含量を乾湿重量法で測定した. 2.脳表血管の反応態度 実験1と同一条件のネコを用いて, 頭部低位状態(D群)と矢状静脈洞閉塞状態(E群)の脳表血管の形態変化を観察した. 方法は, 右側頭頂部に設置した cranial windowから実体顕微鏡下で写真撮影を行い, おもに脳軟膜動静脈を中心に両群の反応態度を比較した. さらに, レーザー血流計を用いて局所脳皮質血流量(r-CBF)の変化も検討した. 結果および考察 各群とも実験操作によるICP負荷が約10mmHgと同程度であるにもかかわらず, C, PVIは, 実験操作前の対照値に比較して, A群では不変, B群では増加, C群では減少した. また, Roも, A群, C群では増加したがB群では減少し, 両静脈還流障害モデル間の頭蓋内圧環境に大きな相違を認めた. なお, A群での脳組織水分含量は, 灰白質, 白質とも未処置のネコで得た対照値と差がなく, A群, B群間の内圧環境の相違が脳実質の変化に起因するものでないことが明らかとなった. 脳表血管系の形態反応は, D群では, 共通して脳軟膜静脈の拡張がみられたが, E群では, 静脈系の拡張, 動脈系の収縮, 出血巣の発現などの多彩な現象が観察され, r-CBFも減少した. このように, 物理的な静脈還流路の遮断時には, 急激な脳静脈圧上昇により神経性または筋原性機序が働き, 血管壁損傷や血液脳関門破壊の防御機構として動脈系にも影響を及ぼす可能性が推察された. さらに, 以上のような脳血管床の反応態度の違いが, 頭蓋内環境の相違に反映したものと考えられた.
- 大阪歯科学会の論文
- 1995-06-25
著者
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