ラット再生付着上皮におけるレクチン反応性
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概要
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付着上皮(JE)は発生学的に退縮エナメル上皮に由来する. 萌出直前の歯のエナメル質周囲には退縮エナメル上皮が存在するが, 萌出途上で口腔粘膜上皮と融合し, 歯の萌出に伴って退縮エナメル上皮細胞はJEを構成するようになる. 組織学的には歯が萌出しはじめるとエナメル芽細胞は円柱状から立方状に変化し, 口腔粘膜上皮に接近して融合し, 歯面に平行に配列するようになる. そして完全に歯が萌出するとエナメル質周囲の一層のエナメル上皮細胞は消失して歯頸部のみに残存してJEとなる. JEは, 少数のデスモソームおよび著しく拡大した細胞間隙を有し, 非角化性の特有な形態および機能をもつようになる. このようなJEは, 歯の萌出後には口腔歯肉上皮(OGE)に由来して再生されるにもかかわらず, その形態および機能は元のOGEとは異なり, JE固有の特徴を有する. この事実は, エナメル質と接触するという環境因子, あるいは退縮エナメル上皮から伝達され続けている遺伝的情報に依存するのかどうかは未だ解明されていない. そこで今回, 著者は再生されたJEの特性を知るために, 細胞膜上の複合糖質と特異的に結合するレクチン, すなわち Ulex europaeus agglutinin-I(UEA-I), peanut agglutinin(PNA), soy-bean agglutinin (SBA)および wheatgerm agglutinin (WGA)を用いて検索した. すなわち, OGEの細胞からJEが再生される過程を細胞膜の構成因子である糖蛋白の面から検索するために, 歯肉切除後5, 10および15日目の歯周組織を組織化学的および電顕細胞化学的に観察した. その結果, 以下の結論を得た. 1. 歯肉切除術を施すとOGEから新生された細胞によりJEが再形成され, その形態は発育的に生じた切除前のJEと類似していた. 2. UEA-Iの陽性反応はOGEおよび口腔歯肉溝上皮(OSE)の有棘層の細胞に認められたが, JEにはまったくみられなかった. 3. PNAはOGEおよびOSEの下部有棘層の細胞および基底細胞を除くJEの細胞と反応した. 4. 退縮エナメル上皮およびその外側の細胞, 付着上皮, OSEおよびOGEにはSBAおよびWGAの反応はすべて陽性であった. 5. 再生されたJEはOGE由来であるにもかかわらず, そのレクチン反応性は発育的に形成された切除前のJEと同様であった. これらの結果からOGE由来の細胞は歯と接触することにより, 角化上皮の性格を失ってJEの形態をとるようになり, 細胞膜上に存在する複合糖質の反応性も基底細胞から分化した状態のまま保持されることが明らかとなった.
- 1995-06-25