ラットの歯の実験的移動に及ぼす定常磁場の影響
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概要
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磁場は診断および治療に医療分野で応用されている. 矯正歯科領域においても, 定常磁場はすでに歯の移動に臨床応用されており, 疼痛などの不快感がなく臨床的治療効果が報告されているが, その組織学的な研究は少なく, 定常磁場が歯の人為的移動に及ぼす影響について検討した. 実験材料および方法: 1) ラットの固定下での飼育について, Wistar 系雄性ラット8匹 (42日齢, 体重約200g) を用いて7日間準備飼育したのち, 実験群のラット4匹はアクリル板とステンレス棒からなるラットホルダーを改造した装置に体部を固定して10日間飼育し, 固定を行わなかったラット4匹を対照群として体重を測定した. 2) 電磁石により生じる磁束密度の測定には, 電磁石を2台作製し 6.0A の直流定電流通電下で磁極間に前記1と同様に固定したラットの頭部に作用させて測定した. 3) ラット頭部に電磁石を作用させた場合の温度上昇について, 前記2の実験で電磁石の発熱が認められたため, Wistar 系雄性ラット16匹を7日間準備飼育したのち, 実験群のラット8匹の頭部に最大磁束密度約 60 milli tesla の定常磁場を作用させ, 対照群8匹には磁場のみを作用させないで, 固定開始12時間後, 磁極間の温度, 口腔体温および直腸体温を測定した. 4) ラットの歯の移動に及ぼす直流定常磁場の作用について, Wistar 系雄性ラット120匹を7日間準備飼育したのち, 全身麻酔下で歯の移動装置を装着し, 上顎右側第一臼歯に 20g の頬側方向のカを作用させた. 装置装着30分後, 前記1と同様にラットを固定し, 前記3と同様に実験群のラット60匹の頭部に最大磁束密度約 60 milli tesla の定常磁場を作用させ, 対照群60匹には磁場のみ作用させないで, 装置装着3, 7および10日後ラットをそれぞれ屠殺し, 歯の移動距離を計測したあと, 標本を作製して HE 染色を行い観察した. 実験結果: 1) 対照群のラットは, 7日間の準備飼育中および全身麻酔後も体重は順調に増加したが, 11日目以降増加量はやや減少した. 実験群のラットは, 7日間の準備飼育中は順調に増加したが, 全身麻酔下で固定したのち2〜3日間は著しく体重が減少し, その後減少は緩やかになった. 今回用いた実験方法では, ラットの10日間程度の飼育は可能であるが, 固定による著しいストレスが体重の減少をきたしたものと考えられる. 2) ラット頭部に相当する領域では, 電磁石2台でそれぞれ最大磁束密度 61.1 milli tesla 最小磁束密度 10.1 milli tesla, 最大磁束密度 60.4 milli tesla, 最小磁束密度 10.2 milli tesla の直流定常磁場が生じた. 3) 実験群では電磁石の磁極中心に近いラット鼻先部で平均 7.89℃ の温度差が認められたが, 磁極最外側では平均 1.93℃ の温度上昇であり, 直腸体温と口腔体温には有意差が認められず, 上顎右側第一臼歯周囲の温度は, 両群間に差はなかった. 4) 実験群の歯の移動量は対照群と比較して, 3日間では有意差は認められなかったが, 7および10日間では有意に大きかった. 実験群の7および10日間の歯の移動では, 圧迫側歯槽骨の穿下性骨吸収の進行とともに周囲の血管の拡張と充血, 破骨細胞による活発な骨吸収が認められた. 以上の結果から, 定常磁場を作用されることで, 歯の移動を促進させる可能性が示唆された.
- 1994-08-25
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