家兎VX2癌の微細血管系に及ぼすトラネキサム酸の影響に関する研究
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概要
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実験腫瘍細胞および培養ヒト癌細胞には生物学的性状の一つとして, それぞれの系により異なった凝固・線溶活性が存在し, それらは癌の発育, 転移に関連を有するといわれている. また癌の増殖に対する抗線治療法の意義についての研究で, 癌組織周囲の発育先進部にはフィブリンが沈着し, 腫瘍を被包しているが, ここに抗線維素溶解剤が働くと, 腫瘍は一層フィブリン網で被包されて, その増殖が抑制されるとの報告が多い. またこのほか抗線維素溶解剤の投与による腫瘍増殖抑制の要因の一つとして腫瘍血管新生の阻害による可能性も指摘されているが, 増殖する腫瘍細胞とその間質や腫瘍血管などとの関係については詳細な報告はみられない. そこで著者は, 腫瘍への栄養および薬物の供給路である血管の構築を把握し, さらに抗線維素溶解剤 (トラネキサム酸) の投与が腫瘍の発育および腫瘍血管新生に及ぼす影響を知り, 抗線治療法の意義さらには癌化学療法における抗癌剤との併用療法の有用性について検討するため, 本実験を行った. 実験材料および方法: 実験腫瘍には可移植性癌腫であるVX2癌を用いた. 伊藤らの方法に準じ, 20%腫瘍細胞浮遊液を作製し, その 0.1ml を家兎耳介外側面に移植した. 移植日より連日トラネキサム酸 2000 mg/kg/day を家兎の大腿部筋肉内に投与した群 (実験群) と投与しなかった群 (非投与群) を作り, それぞれ移植後3日, 5日, 1週, 2週で肉眼的, 組織学的, 微細血管鋳型標本の走査型電子顕微鏡学的および透過型電子顕微鏡学的観察を行った. 実験結果: 1) 肉眼的には, 全観察期間を通じ, 実験群では非投与群に比べ腫瘍の増殖抑制がみられた. 2) 組織学的には, 非投与群では移植後, 腫瘍細胞は小胞巣を形成し, 間質を伴いながら浸潤性に増殖していた. それに対し, 実験群では腫瘍細胞は移植初期より密に増殖し, 間質は少なく, また浸潤性にも乏しかった. 3) 墨汁注入標本および走査型電子顕微鏡的観察では, 非投与群においては, 腫瘍血管は移植後3日ですでに活発な新生がみられた. 移植後5日では移植部周囲の血管より移植中央部へ向かって走行する新生毛細血管と新生洞様血管がみられ, 移植後1週では腫瘍全域に密な血管網を構築していた. 移植後2週になると腫瘍中心部は壊死に陥り無血管野となっていた. 4) また実験群においては非投与群に比べ血管の新生に遅れがみられた. すなわち実験群では腫瘍血管は移植後5日より新生がみられ, 移植後1週では移植中央部へ向かう新生毛細血管が吻合して疎な血管網を形成していた. 移植後2週では腫瘍のほぼ全域に血管網が形成されていたが, その密度は非投与群に比べて少なかった. さらに透過型電子顕微鏡的観察においても非投与群に比べ内皮細胞の幼若なものが認められた. 以上の結果より家兎VX2癌に対するトラネキサム酸の投与は腫瘍血管の新生を抑制し, このことは腫瘍増殖を抑制する一因であると考えられた. また抗癌剤との併用でよりいっそうの効果が期待されると考えられるが, この際腫瘍血管の透過性が問題となり, 今後の検討が必要であると思われる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1994-08-25