メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の上皮細胞への付着性および酵素産生性
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概要
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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (MRSA) 感染症は, 弱毒菌感染症タイプに属するので, 健常人を発症させることはないが, 主として接触感染により compromised host に感染し, 発症させる. Compromised host に感染した MRSA はメチシリンばかりでなく, 市販されているはとんどの β-lactam 剤に耐性を示すため, 肺炎, 腸炎あるいは敗血症を引き起こし, 死に至らしめることもある. メチシリン耐性は作用点の変化, すなわち, penicillin binding protein 2' (PBP2') が代替酵素として働くことで発揮される. PBP2' は mec A 遺伝子に支配されており, β-lactam 剤の使用により, PBP2' が誘導されるという特徴をもつ. また, mec A 遺伝子は S. aureus ばかりでなく, 広い範囲の Staphylococcus 種 においても存在している. S. aureus の弱毒菌としての病原性は主として coagulase による組織侵襲性と DNase などの加水分解酵素が関係することが明らかにされている. しかし, S. aureus 以外のメチシリン耐性を示す Staphylococcus 種についての病原性はあまり知られていない. そこで本研究では, メチシリン耐性で coagulase を産生しないブドウ球菌 (MRCNS) の病原性状を知る目的で, 上皮細胞への付着性, 赤血球凝集性, 酵素産生性および enterotoxin 産生性について検討し, 以下の成績を得た. その結果, すべての菌株が上皮細胞への付着性を示した. Mannitol 発酵株では, 1細胞あたりの平均付着菌数は331.5個であった. 一方, mannitol 非発酵株では, 病院環境, ヒト鼻粘膜由来の双方とも供試菌株の50%以上が, 1細胞あたり500個以上の付着性を示した. これらの値は mannitol 発酵株, 非発酵株ともこれまで報告されている MRSA の付着性よりもはるかに高く, 付着性の面からは, MRCNS は MRSA より病原性が強いと考えられる. 上皮細胞に対して強い付着性と弱い付着性を示す菌株を選び, 表層構造を比較した結果, 両 group とも線毛様構造がみられる菌株や表層構造に凹凸が多い菌株などが観察された. しかし, それぞれの group で特徴のある形態を見いだすことはできなかった. また, 両 group の赤血球凝集性を比較したところ, 両者の間に明瞭な相違は認められなかった. これらの結果は, MRCNS の上皮細胞への付着と赤血球凝集性とが異なる因子によって仲介されていることを示唆してしいる. MRCNS の加水分解酵素産生性を検討した結果, lecithinase, lipase, DNase, β-lactamase あるいは hyaluronidase を産生する菌株がみられた. 病院環境由来株, ヒト鼻粘膜由来ともに, mannitol 発酵株と非発酵株との間で酵素産生性が異なっていた. Mannitol 発酵株では hyaluronidase 産生株がみられたのに対し, 非発酵株ではみられず, 逆に, mannitol 非発酵株では50%以上の菌株が lecithinase を産生したのに対し, 発酵株では産生しなかった. このように, mannitol 発酵株と非発酵株の酵素産生性に一定の傾向がみられたことから, 限られた菌種が mec A 遺伝子を獲得したのか, あるいは, 限られた感染源から MRCNS が院内に蔓延している可能性も考えられる. また, mannitol 発酵株よりも非発酵株のほうがより多くの種類の酵素を産生する傾向がみられた. 以上の結果から, MRCNS には MRSA に匹敵する病原性があり, MRCNS のなかでは mannitol 発酵株よりも非発酵株のほうがより強い病原性をもつと考えられる.
- 大阪歯科学会の論文
- 1994-06-25
著者
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