マウスにおけるアブミ前庭関節と顎関節の形態発生
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
顎関節は胎生期における間葉細胞から発生するもので, 組織改造が旺盛な器官である. また, アブミ前庭関節も同様な組織によって構成されているために, 卵円窓部にも組織改造, ときには病理的変化が発生しやすい領域といえる. 本研究ほアブミ前庭関節, 輪状靭帯および卵円窓の発育を解明し, さらに顎関節の発生およびその形態完成と成熟を比較した. さらに, 関節部の一次硝子軟骨と二次線維軟骨における弾性系線維の加齢変化について, 組織学的検索を行った. 実験材料には, Slc-ICR系マウスの胎生13日目から生後28日目までの各日齢についてそれぞれ5匹を用いた. 観察には顎関節部と錐体部とを一塊として摘出し, 1/2 Karnovsky固定液で前固定, 1% osmium tetroxideで後固定, 通法に従ってalcohol系列で脱水後, Epon812で包埋した. 光顕的には厚さ1μmの連続準超薄切片を作製し, malachite green・toluidine blue・basic fuchsin三重染色を施して検索を行った. 電顕的には各時期における顎関節部および耳小骨関節と卵円窓部の超薄切片にuranyl acetate・lead citrate二重染色を施し, 日立H-800透過電子顕微鏡で観察, 撮影した. 下顎突起軟骨は胎生13日目頃に間葉細胞から発生し, 以後軟骨内骨化によって顎関節方向に成長しながら発育していく. 顎関節は胎生17日目にその形成が開始され, 生後1週目に形態完成が認められた. 前歯部が咬合する時期(生後10から12日目)になると, 関節軟骨は棚状配列の軟骨細胞構造が著明となり, 関節部にはコラーゲン線維および弾性線維が認められた. 第一臼歯が咬合する時期(生後21から23日目)になると, 顎関節突起の棚状配列の各軟骨細胞層には非薄化がみられ, 樹状血管の分布が疎になり, 成熟期に移行する構造が認められた. 生後4週までの顎関節の形態は未熟で, 関節内にはエラウニン線維が束状を呈するコラーゲン線維中に混在しているが, 線維成分の加齢変化は認められなかった. 卵円窓部は胎生13日目では陥没して薄くなり, その部の軟骨組織が耳小骨と中耳内の間葉細胞とに移行しているのが認められた. 胎生17日頃に入ると卵円窓部の軟骨はその連続性が失われ, アブミ骨と卵円窓壁面には線維結合の形成が認められた. 生後0日目から5日目におけるアブミ前庭関節には線維芽細胞が柵状に配列した輪状靭帯が形成され, その部のコラーゲン線維とエラウニン線維が関節部の軟骨基質に移行していた. 生後1日目では関節部に二次線維軟骨が出現し, 骨置換がみられた. 生後1週目以降では卵円窓部の関節軟骨における血管の分布は疎となり, 薄い軟骨組織が関節面にのみ残存し, 成熟期の組織像を呈していた. なお, 関節付近には介在層や関節腔の出現は認められなかった. 一方, 耳小骨は顔面頭蓋における二次骨化の中心をもたない一次硝子軟骨からなるもので, 関節腔は生後0日目前後に出現し, 生後5日目に鼓室の含気化とともに成熟した状態がみられた. また, 関節包には多数の弾性線維が認められた. 以上の結果より, 中耳部の単純関節の完成と成熟は早期に行われ, その時期は関節部の機能状態によって左右される. 硝子軟骨と線維軟骨の関節部における弾性系線維の成熟度は, 関節の成熟と機能に関係するものであるが, 耳小骨関節のものが最も早い. また, 形態的成熟を終えたアブミ前庭関節と未熟な顎関節のそれぞれにおける弾性系線維は, おもにエラウニン線維であることが明らかになった.
- 1993-12-25