国民線量低減のための疫学的研究 : 医育機関附属病院受診患者の被曝について (大阪歯科大学大学院歯学研究科博士論文内容要旨および論文審査結果要旨)
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概要
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歯科学生にとって, 1年という臨床実習期間は決して長いものではない. 覚えなければならない技術があまりにも多いからである. なかでも口内法と呼ばれる歯科用X線フィルムを用いる撮影は, 見掛けほど簡単ではなく, 医科におけるX線撮影法も含めて, どちらかといえば技術の修得が困難な部類に属するものである. この撮影法の指導要領については, 全国の医育機関において検討が重ねられ, それぞれの施設なりにトレーニングプログラムが作成されている. しかしながら, このプログラムの実施に当たっては, いずれの報告をみてもまさに試行錯誤の連続で予期された効果はあがっていないというのが現状である. その理由は, この撮影法の特徴がフィルムのポジショニングの困難さにあることで, 口腔内という場所の狭さもさることながら, 患者自身が感じるフィルムに対する異物感とその辺縁による圧迫痛が正しい位置へのフィルムの固定を妨げるのである. したがって, このような感覚的苦痛をマネキン実習から体得することは不可能で, マネキンで経験できるのはごく基本的な手技にすぎない. やはり, 実際に受診患者の撮影を行うのが最も有効であるという結果が, 過去の実績からも明らかにされている. ここで問題となるのは撮影の失敗で, 学生教育の場では患者の被曝低減を説きながら, 臨床実習の場では再撮影を命じているという矛盾については, その解決が各医育機関の積年の課題となっている. このように放射線診療では患者被曝の問題は避けて通れない. そこで, 現行の教育方法の是非はともかくとして, まず, 医育機関附属病院受診患者の口内法撮影による被曝の実態を調査した. 教育に関連した被曝調査は, わが国ではいまだ報告されていない. 大阪歯科大学附属病院歯科放射線科では, 歯科学生が口内法撮影を実施した患者分について, その撮影状況を詳細に記録し過去8年間にわたって保存, 蓄積してきた. このうち1985年および1986年の2年分を用いて口内法撮影頻度を調査し, 被曝線量推定のための基礎資料とした. 次に, ランド・ファントムを被照射体に用いて線量測定実験を行い, 口内法撮影による医育機関附属病院受診患者1人当たりの平均被曝線量を推定した. 結果ならびに結論 1) 本学附属病院歯科放射線科において, 臨床実習生によって口内法撮影を受けた患者の撮影頻度は, 撮影失敗に伴う再撮影分をも含めると, 平均1人当たり約7回であった. これは一般歯科医院受診患者の約5倍に相当した. 2) 臨床実習生の撮影失敗率は約40%で, 1枚の口内法X線写真を完成させるのに, 平均約1.4回の照射を必要としていた. 3) 口内法撮影1照射当たりの被曝線量は, 撮影部位によって差があるが, 骨髄平均線量に関しては, 最高値は上顎臼歯部撮影時の13.7μGyで, 最低値は下顎犬歯部撮影時の2.53μGyであった. 一方, 実効線量については, 4〜11μGyの範囲であった. 4) 臨床実習生によって口内法撮影を受けた患者1人当たりの骨髄平均線量は, 1985年が45.7μGy, そして1986年が42.4μGyであった. 実効線量は, それぞれ52.1μGyおよび48.9μGyであった. 5) このうちの約30%は, 再撮影に起因した.
- 1990-04-25
著者
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