リン酸カルシウムセメントに対する根尖歯周組織の反応
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概要
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研究目的 : リン酸カルシウムを歯内治療に応用するために, 多くの試作リン酸カルシウムセメント(TPCC)の組織親和性あるいは刺激性が試験されてきた。ところで, 加圧根管充填に際してシーラーが根尖孔外に溢出することがあり, 現在市販されているシーラーではその刺激性によって根尖周囲組織が傷害される可能性がある。一方, 根尖周囲組織疾患や機械的根管処置によって欠損を生じた歯槽骨をはじめとする根尖周囲組織の創傷治癒を積極的に促進する作用もシーラーに賦与されることが望ましい。そこで, TPCCが根尖孔から根尖周囲組織, とくに, 歯槽骨内の創傷部に溢出した場合の炎症の程度と歯槽骨の再生について検索した。材料および方法 : リン酸四カルシウムを主成分とするTPCC-1とα-リン酸三カルシウムを主成分とするTPCC-2を試作し, 硬化時間, 崩壊率および硬化時表面PHを測定した。また, 硬化体表面と割断面の微細構造を走査型電子顕徴鏡で観察した。さらに, TPCCに対する根尖周囲組織反応を7週齢の雄性SDラットを用いて検索した。下顎第一臼歯の髄室開拡後, #15〜25のハンドリーマーで作業長を7 mmとして根管を処置し, 根尖孔から根尖周囲組織への穿通を行い, これらの根管にTPCC-1 (第一群), TPCC-2 (第二群), あるいは, 対照としての市販の酸化亜鉛ユージノール系シーラー(第三群)を填入し, 根尖孔外へのセメントの溢出を図った。また, 第四群の根管にはセメントを填入せず, 根尖孔外への穿通に伴う根尖孔周囲および歯槽骨の組織変化を観察するための対照群とした。1, 3および5週間後に下顎骨を摘出し, 病理組織学的に光学顕微鏡下で観察した。結果および考察 : 硬化時間はTPCC-1が7.6±1.3分, TPCC-2が8.2±1.1分で統計的に有意差はなく, 崩壊率はTPCC-1が8.9±1.1%, TPCC-2が4.3±0.1%で統計的に有意差が認められた。TPCC-1硬化時表面pHは練和後5分で4.5±0.2を示し, 50分後まで有意差はなく, 60分後にのみ有意差が認められた。TPCC-2では練和後5分から60分後までpH 4.0±0.2を示してほとんど変動せず, 経時的変動に有意差は認められなかった。TPCC-1とTPCC-2との間では練和後5〜50分までの測定値に有意差が認め5れた。TPCC-1硬化体表面は針状粒子によって構成され, 硬化体割断面も針状粒子が絡み合って一塊をなし, 成長しつつある所見が得られた。TPCC-2の硬化体表面は緻密な平面を呈しており, 微細な板状粒子が表面を覆っていた。病理組織学的検索の結果, すべての群において処置後1週間では機械的処置の影響と判断される根尖部歯槽骨の広範囲な吸収あるいは破壊が認められた。第一群の1週後に根尖周囲組織に炎症性反応は観察されず, 硬化体表面の微細粒子によって誘導されたと考えられる多核巨細胞が根尖周囲組織中のTPCC-1周囲に存在した。3週後にも歯槽骨の破壊が著明に認められた。5週後には歯槽骨がほぽ再生され, 根尖周囲組織中の残存TPCC-1は少量であった。第二群では根尖周囲組織に溢出したTPCC-2の周囲に液成分の影響と思われる多形核白血球が1週間後に観察されたが, 3週後には観察されず, 歯槽骨は5週後までにほぽ再生された。根尖周囲組織中に残存するTPCC-2は微量で, 根尖孔付近のTPCC-2周囲に硬組織添加が観察された。第三群では根尖孔から溢出したシーラー周囲に3週後まで多核巨細胞が観察され, 根尖孔には5週後まで多形核白血球が集積していた。また, 歯槽骨の再生は認められなかった。第四群では1週後に根尖周囲組織に炎症性反応が観察され, 5週後でも歯槽骨は再生されていなかった。以上のことから, 今回試作したリン酸カルシウムセメントは歯槽骨修復を促進する作用を有しており, 歯内治療での生体材料として有望であることが明らかになった。
- 大阪歯科学会の論文
- 1997-09-25
大阪歯科学会 | 論文
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