顎関節症患者における顎関節滑液とヒアルロン酸分子量ならびにN-アセチル-β-グルコサミニダーゼ活性について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ヒト顎関節における滑液解析の報告は少なく, 関節疾患の病態解明と病期診断の方法のひとつとして滑液の分析が臨床応用されるには至っていない。そこで, 今回, 私たちは, ヒト顎関節滑液中のヒアルロン酸(以下HAと略する)分子量分布とその分解関連酵素であるN-アセチル-β-グルコサミニダーゼ(以下NAGと略する)活性を測定し, 顎関節症の病態診断に応用可能か否かを検討した。大阪歯科大学附属病院口腔外科第1科を受診し, MRI検査およびパノラマ4分割X線検査ならびに多層同時断層X線検査により関節円板前方転位を確認し, 顎関節症III型(以下III型群とする)と診断した54関節, あるいはIV型(以下IV型群とする)と診断した45関節の顎関節滑液を試料とした。また, 顎関節症状の認めない成人11顎関節の滑液(以下健常群とする)を対照試料とした。なお, III型群を関節円板の復位の有無から復位性群13関節および非復位性群41関節に分類し, さらに非復位性群を開口距離から30 mm以下群(以下非復位性非可動群とする)29関節と37 mm以上群(以下非復位性可動群とする)12関節に分類した。上関節腔に22G注射針を穿刺後, 1%リドカイン液1.5 mlを緩圧下で5回パンピング操作を行って顎関節滑液に混入させ, リドカイン液-滑液混合液として回咬し, 滑液試料とした。顎関節滑液中のHA分子量分布の検討の前段階としてグリコサミノグリカン(以下GAGと略する)の抽出ならびに分子種の同定を行った。GAGの抽出は荒木らの方法に準じた方法で, またGAG試料の分子種の同定のためには一次元セルロースアセテート膜電気泳動を行った。さらにHAの分子量分布を検討するために, 高速液体クロマトグラフィー(HPLCと略する)を行った。滑液試料の一部を用いてBorooahらの方法に準じてNAG活性を測定した。健常群と山型群あるいはIV型群との群間比較のための検定にはMann-WhitneyのU Testを用いた。セルロースアセテー卜膜電気泳動では, 健常群, III型群およびIV型群の全群で, 顎関節滑液GAGとしてHAのみが認められた。HAの分子量分布と顎関節症の各症型との関係を検討するために, HPLCで解析可能であった標準試料ならびに各群における滑液試料(健常群4関節, III型群22関節, IV型群18関節)のHAのピークの保持時間を各群間で比較した。III型あるいはIV 型群のピーク保持時間は健常群に比べて有意に長く, HAの分子量は健常群>III型群>IV型群の順に低分子化の傾向を示した。さらに, III型群とIV型群の間では保持時間に有意差は認められなかったものの, IV型群はIII型群より低分子化したHAの占める割合が多くなるピーク形状を示した。健常群とIII型群, 健常群とIV型群およびIII型群とIV型群のそれぞれのNAG活性値の2群間検定を行うと, いずれも後者の方が有意に高かった。III型群のNAG活性を復位性群, 非復位性非可動群,復位性可動群に分けて比較すると, 健常群に比べてNAG活性はそれぞれ有意に高かった。しかし, 各亜型群間では有意差を示さなかった。開口時顎関節痛の有無と顎関節滑液NAG活性の関係を検討すると, III型群では,有痛群と無痛群の間に有意差を認めなかった。また, III型各群とIV型無痛群との間にも有意差を認めなかった。しかし, IV型群では無痛群に比較して有痛群の方が有意にNAG活性が高かった。顎関節滑液のNAG活性とHA試料のクロマトグラムにおけるピーク値の保持時間との関係を求めると, 正の相関 (Spearmanの相関係数 r=07358)を示した。また, HPLC分析では分子量の大きい試料ほど早く溶出され, 保持時間が短くなることから, 顎関節滑液のNAG活性はHAの分子量分布に逆相関することが明らかになった。以上のことから, 顎関節症患者の滑液中のHA分子量ならびにNAG活性の測定は, 病態診断の上で重要であり補助診断となりうることが示唆された。
- 1997-09-25
論文 | ランダム
- 山村をめぐる経済的諸問題について--三重県南牟婁郡五郷村の例
- 統制撤廃のもたらす明暗--砂糖の統制撤廃と農家--情勢分析資料-2-
- 米穀統制徹廃と社会的波紋--その国鉄輸送に及ぼす影響
- 米穀統制撤廃と社会的波紋--その国鉄輸送に及ぼす影響
- 木材の需給とその輸送