凍結化学療法における抗癌剤の至適投与時期に関する実験的研究
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概要
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凍結手術は一般的な外科手術と比較して, 術中, 術後の疼痛や出血が少なく, 全身的なストレスも少ないため幼児, 高齢者やリスクの高い患者にも安全に施行できる。また, 手術操作が簡便で凍結創は瘢痕形成も少ないなど多くの利点を有し, 良性腫傷, 悪性腫瘍や炎症など幅広い疾患に用いられており, 口腔領域においても適応が確立されてきた。凍結手術を施行した際, 凍結壊死の生じる範囲が不確実になることがあり, とくに悪性腫瘍に適用したとき, 不完全凍結による再発や凍結周囲のリンパ管の拡張による転移が懸念されている。凍結化学療法は局所凍結による循環障害を利用して抗癌剤の組織内濃度を高め持続させる方法で, 凍結手術に化学療法を併用することは不完全凍結あるいは周囲残存腫癌の制御に効果的な手段であると考えられる。凍結化学療法にはMitomycin C (MMC), Bleomycin (BLM), Fluorouracil (5-FU)などの抗癌剤やDimethyl-triazeno-imidazole-carboximide (DTIC)などの免疫賦活性抗腫瘍薬が使用され, その効果に関する基礎的, 臨床的報告がみられる。抗癌剤や実験腫瘍を用いた研究でも抗癌剤の種類により薬剤の動態に差異が認められ, 適切な併用薬剤の選択と薬剤の投与タイミングを知ることは凍結化学療法の重要な課題であるが, 凍結部位における投与薬剤の消退については不明の点も多く, 凍結手術と抗癌剤の効果的な併用法はいまだ確立されていない。とくに口腔組織における凍結手術後の抗癌剤の消退に関する報告は少なく, 凍結手術後の健常組織における薬剤の取り込みや消退についても不明の点が多い。今回, 口腔領域に多い扁平上皮癌に効果の高いPeplomycin (PEP)と, 白金製剤であるCisplatin (CDDP)およびNedaplatinを凍結手術と併用したとき, 最も高い組織内濃度を得るための至適投与条件を検索する目的で, 凍結手術後の局所循環動態の変化および薬剤の組織内移行と消退につき実験を行った。まず, ハムスターの頬嚢を用いて凍結条件と循環動態の観察を行った。ハムスターの頬嚢を-40℃以下に凍結して融解後, 毛細血管の血流は停止し再開しない。細動脈および細静脈の血流は再開するが, 凍結120分後までに停止する。動脈および静脈の血流は不規則ながら持続し, 凍結3時間後でも保たれていた。ついで, ウサギ皮膚を用いて局所凍結後の局所循環動態と血管透過性の変化を観察した。ウサギ皮膚の凍結直前に静脈内投与した色素(Evans blue)は凍結部ならびに周囲組織に漏出し72時間以上残留した。凍結1時間後までに投与した色素は凍結周囲組織に漏出し48時間後まで残留した。凍結後3時間および12時間後に投与した色素は凍結周囲組織にわずかな漏出が認められた。凍結手術により生じる循環障害後のウサギの舌, 頬粘膜および皮膚の各組織における抗癌剤の組織内濃度の変化を観察した。PEPを凍結前に投与すると凍結された組織ならびにその周囲組織に高い組織内濃度が得られ24〜48時間持続した。しかし, 凍結後に投与すると凍結された組織への薬剤の移行はなく, 周囲組織にわずかな薬剤の移行が認められた。凍結前に投与したCDDPは凍結および非凍結組織ともに血清に比べ高い組織内濃度が240時間持続した。凍結組織, 非凍結組織間に濃度差は認められなかった。凍結前に投与したNedaplatinの凍結組織内濃度は舌および頬粘膜の口腔組織では非凍結組織より高く24〜48時間持続した。今回の研究からPEP, CDDPおよびNedaplatinの抗癌剤を併用薬とした凍結化学療法にあたっては凍結直前の投与が効果的と考えられた。
- 大阪歯科学会の論文
- 1997-06-25
著者
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