生活歯髄切断後の線維芽細胞増殖因子と硬組織形成
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概要
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生活歯髄切断法における歯髄の創傷治癒については多くの報告がなされてきた。まだ, 生活断髄に水酸化カルシウムが用いられるのは, それ自体強アルカリ性であるために, これと接する歯髄表面を凝固壊死させ, この刺激が歯髄組織に象牙質形成と修復を誘導する作用があると考えられているからである。新生硬組織被蓋形成による歯髄の修復過程については初期石灰化を基質小胞に求めるもの, 異所性石灰化に求めるものなど種々の見解があり, 詳細は意見の分かれるところである。最近, 骨折や皮膚軟組織創傷の治癒に関して細胞増殖因子の関与が多く報告され, 線維芽細胞増殖因子(bFGF)が血管新生や軟骨形成促進のような創傷治癒に関係することが明らかにされている。そこで生活歯髄切断法における歯髄組織の創傷治癒過程においてもbFGFの関与を仮定した。本実験では, 断髄後の新生硬組織形成過程でのbFGFの出現と役割を明らかにするために実験的にラット歯髄を切断し, 断髄面に水酸化カルシウムを応用し。bFGFの消長および骨形成に関与するアルカリフォスファクーゼ活性を組織化学的に検索するとともに, カルセインとアリザリンレッドで硬組織添加部分を蛍光ラベリングし共焦点レーザー走査顕微鏡(以下LSM)で観察した。実験には6週齢のSD系ラット50匹を使用した。全身麻酔下で#1ラウンドバーによる下顎左側第一臼歯の髄室開拡を行い, 根管口で歯髄を切断後, 滅菌蒸留水で練和した水酸化カルシウムを貼布し, 光重合型レジンで仮封した。実験期間を0, 3, 7, 14, 28日に設定し, 実験期間終了後10%中性緩衝ホルマリンにて実験動物に灌流固定を行い, 摘出下顎骨をEDTA-4 Na液で脱灰した。その後, 通法により厚さ8μmの凍結切片を作製し, ヘマトキシリン・エオジン染色を施して鏡検した。また, bFGFの局在を免疫組織化学的に検索すると同時に硬組織形成に関与するアルカリフォスファクーゼ活性の局在を酵素組織化学的に検索した。一方, 実験動物には断髄直後から2日おきに体重100 gにつき蛍光ラベリング剤であるカルセイン2 mgとアリザリン4 mgを交互に腹腔内に投与し, 摘出した下顎骨の研磨標本をLSMで観察した。なお, 免疫組織化学染色のポジティブコントロールとしてラット下顎第一臼歯を抜歯した下顎骨標本に対して同様の染色処理を行った。新生硬組織は, 断髄後14日から認められ, 断髄後28日で完全な硬組織被蓋の形成が観察された。また, 断髄直後では歯髄切断部最表層や歯髄の他の部位にbFGFの出現は見られなかったが, 断髄後3日に断髄面直下の血餅や線維芽細胞, 細胞外基質あるいは血管内皮細胞にbFGFの出現と局在が強く認められ, 断髄後7日以降では消失した。一方, ALPの活性は, 断髄面に近接した根管壁象牙芽細胞層において断髄後14日から認められ, 断髄後28日では硬組織被蓋直下の象牙芽細胸様細胞層で最も強くなっていた。LSM象では, 断髄後7日に断髄面に球状のラベリング線が, 14日後では断髄面に近接した根管壁付近から層板状のラベリング線が観察された。また, 断髄後28日では, 明らかに何層にも重なった層板状のラベリング線が観察された。断髄後3日に認められたbFGFの局在は, 断髄後7日で減少し, それに伴ってアルカリフォスファクーゼ活性陽性反応を認めるようになった。このことは, 出現したbFGFが断髄面にある間葉系細胞に分化・増殖を促し, 分化した細胞に順次消費され, 新生象牙芽細胞による切断部の硬組織形成へと向かう一連の歯髄組織の治癒過程を示しているものと考えられる。
- 大阪歯科学会の論文
- 1997-06-25
著者
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