海岸砂防工に関する基礎的研究
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概要
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海岸砂防工事では,まず人工前砂丘を築設し,つぎにこれを固定して,飛砂の侵入を防止するのが通則である.ところがわが国の人工前砂丘では,その機能を果していないばかりでなく,かえって風力,飛砂量を増加させている場合がある.この事実に注目し,わが国の環境に適した合理的な工法の開発に資するため,海岸砂地における風,飛砂,飛塩,温度などについて,諸種の実験を行った. 風に関しては,砂面からの高さと風速の垂直分との間に対数法則が適用され,砂面上の摩擦速度と地上1mの高さにおける平均風速との間に比例関係があることを認めた.また風速の乱れは砂丘の風上面で小さく,風下面では大きくなることを観察した.つぎに葭簀垣周辺の風速分布を観測して,摩擦速度が垣に近ずくにつれて直線的に減少し,垣からその高さの約3倍離れた風下で最小になることを見出した.板垣では板の巾ならびに間隙を変えて実験し,間隙率が等しい場合は板巾の狭い方が減速効果が大きく,効果最大の点が垣に近付くことを知った.また摩擦速度は間隙率零の場合,垣の直後で最小となり,それより後方で急増したが,間隙率が増する従い,最小の位置が垣から遠ざかった.垣に加わる風圧は野外実験と模型実験によって測定し,垣の抵抗係数が間隙率の増加と共に減少し風速の増加と共に増大することを確めた.人工砂丘周辺の風速分布については,つぎの事実が認められた. (1) 風下面には必ず風速の減速域がある. (2) 風上面の大部分,特に丘頂附近には必ず風速の加速域がある. (3) 摩擦速度は風上面から丘頂にかけて急増するが,風下面では急減し,平均して風上面より小さい. 飛砂を起こす限界風速は,変動が大きく,限界摩擦速度は砂丘の風上面で丘頂および平坦面より大きく,風下面では丘頂よりも小さい.なお含水率の増加が,限界摩擦速度の増加を伴うことも確認された. 飛砂量は,採砂器を用いる方法と,砂面の昇降を測量する方法とで観測したが,結果として飛砂は人工前砂丘によって完全に防止されず,海岸附近の砂が人工砂丘の後方まで吹き送られていることを確めた.また堆砂垣による堆砂の断面を写真測量し,その形状の特徴ならびに時間的変化から,つぎの事実を認めた. (1) 堆砂は垣の前後で別々に始まる. (2) 堆砂の最終断面形は風上面がくぼみ,風下面がふくらんだ形となり,傾斜は風上が急,風下が緩となる. (3) 堆砂面が平面をなすのは,風向が垣と平行に近いか,風力の弱い場合である. (4) 堆砂の進行に伴い,風上,風下両面とも傾斜は減少する. (5) 補助垣を設けると主垣前方の砂面が侵蝕される. (6) 垣を傾けると,前傾,直立,後傾の順に堆砂の重心が前から後に移る. 塩分分布については,砂面近くの飛塩素量は,人工砂丘風上では,その対数が海岸から巨離の増加と共に直線的に減少し,減少率は風速に無関係であること,落塩素量は,その対数が海岸からの巨離の対数の増加に伴って,直線的に減少することが観察された. 温度については,前丘頂が風上面より低温であることが観測された.これは丘頂の風速が風上面より大きいためであると解釈される. 以上のような実験的研究の結果として,現在の人工前砂丘は,海水の侵入防止,風下面の風速緩和の機能はあるが,飛砂抑止の効果は多くを期待することができないと考える.それは人工前砂丘風上面では風の限界摩擦速度は増加するが,風速も増加するため,摩擦速度もまた限界摩擦速度を越えることがあるからである. 飛砂抑止に有効な施設としては,海岸線に接近して堅固な前面を急傾斜にした堤防を数多く設けることが提案される.前丘を作る場合には,風上面の粗度をつとめて大にする必要がある.
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