岩石の間隙径分布とその地形学的意義(<特集>地形プロセスにおけるロックコントロール)
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概要
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岩石の間隙径分布を水銀圧入法によって測定し,他の岩石物性との関係を調べた.間隙径分布の測定における再現性の高い間隙径の範囲は,3.8×10^<-3>μm〜10^<1.5>μmであったから,その範囲を間隙径分布の有義範囲とした.間隙径分布の特徴は,有義範囲の間隙径を,大間隙,α(10^<1.5>μm≥α>10^<0.5>μm);中間隙,β(10^<0.5>μm≥β>10^<0.5>μm);小間隙,γ(10^<-0.5>μm≥γ>10^<-1.5>μm)および極小間隙,δ(10^<-1.5>μm≥δ≥3.8×10^<-3>μm)の4階級に区分すると,明瞭になる.試料の単位質量あたりの,それら4階級の間隙容量をそれぞれV_α,V_β,V_γ、およびV_δ(cm^3/g)と表し,それらの合計を総間隙容量,V_t(cm^3/g),と呼ぶことにした.間隙径分布と他の岩石物性とを比較した岩石は,岩種では9種(泥岩,砂岩,礫岩,凝灰岩,粘板岩,石灰岩,花崗岩および結晶片岩)であり,それらの計164個の岩塊から得た試料(各岩塊から数個)について間隙径分布を測定した.その他に2本のボーリングコア(安山岩と粘板岩)についても間隙径分布を測定した.測定されたV_tは2×10^<-3>〜8×10^<-1>cm^3/gの広範囲に及んだ.V_tに対する4階級の間隙容量の占有比は岩種によって異なる.V_tの小さな岩石(粘板岩,細粒砂岩,石灰岩,花崗岩,結晶片岩)では,V_tのほとんどはV_αおよびV_βで占められ,V_δは著しく小さい.一方,V_tの大きい岩石(泥岩,頁岩,粗粒砂岩)では,V_tのほとんどがV_γ、およびV_δで占められている(ただし,V_α、およびV_βは前者より大きい).間隙径分布の測定プロセスで自動的に算出される間隙率(n')は通常の湿潤法で求めた間隙率(n)と良い相関を示した.最大含水比は,当然のことながら,V_tと良い相関を示した.透水係数はV_αとV_βの合計に最も良く相関し,V_α,V_δおよびV_tとの相関は低くかった.これは,βとγの境界間隙径(10^<-0.5>μm)が自由水と毛管水の境界をなすpF値で4.2に相当するからであろう.湿潤状態の試料の縦波速度は乾燥状態の場合よりも,間隙径分布との相関が高い.最も高い相関は湿潤縦波速度とV_αとV_βの合計であり,最も低い相関は乾燥縦波速度とV_δであった.なお,泥岩の湿潤縦波速度は,他の岩石の場合に比べて間隙容量が同じでも,小さい値を示した.これは泥岩供試体の吸水膨張の影響であろう.岩石の圧縮強度は,V_tが小さいほど大きいが,V_tが同じ場合にはV_αとV_βの合計に強く制約され,V_γとV_δには第一義的には無関係であることが判明した.よって,同一岩塊から整形した供試体の圧縮強度にバラツキが生じるのは,V_αとV_βの合計の僅かなバラツキに起因すると考えられる.なお,泥岩の圧縮強度は,他の岩石の場合に比べて間隙容量が同じでも,小さい値を示した.泥岩を除いた場合に,最も相関の良い湿潤圧縮強度とV_γ、とV_δの合計との関係式を用いると,後者の測定値から湿潤圧縮強度を誤差1桁以内で推定できることが判った.岩石強度に対する岩石組織の異方性の影響を調べるために,片理程度の異なる2種の石墨片岩の片理面に垂直および並行に載荷した場合の圧縮強度とその試験の前後における間隙径分布の変化との関係を調べた.どの供試体でも,破壊後に全ての階級および総間隙容量が増加したが,その増加傾向は片理の程度および載荷方向で異なる.片理に乏しい供試体では,どの載荷方向でも,圧縮試験後に全ての階級および総間隙容量が増加した.これは載荷による破壊時に新しい間隙が供試体の内部に形成されたこと,強度の大きい岩石供試体ほど新しい間隙の個数,間隙径および間隙容量が増加すること,そして新しい間隙の間隙径はαからγまでの広範囲におよぶことを示唆する.一方,顕著な片理をもつ供試体では,垂直載荷での強度はV_tならびにV_αとV_βの合計に比例したが,並行載荷での強度はV_t、ならびにV_αとV_βの合計と逆相関を示した.これは並行載荷での破壊は片理面にそう既存の間隙を利用して破壊が起こるためと解した.岩盤の風化に伴う間隙径分布の変化傾向は3種に類型化される.第1型は,風化に伴い,小さな間隙の容量(V_γ+V_δ)が減少し,大きな間隙の容量(V_α+V_β)が増加するが,βとγの間の間隙容量はほとんど変化しないことで特徴づけられ,軟岩(第三系の砂岩,泥岩,頁岩)に出現する.この型は,小さな間隙の隔壁が溶解により失われ,そのため小さな間隙が結合して不連続的に大きな間隙になるためと解した.第2型は,全ての階級の間隙が増加することで特徴づけられ,安山岩や花崗岩などの火成岩に出現する.この型は造岩鉱物の間の間隙が物理的風化により大きくなるためと考えられる.第3型は,第2型と同様に,風化とともに全ての階級の間隙容量が増加するが,その増加率は小さい間隙の場合ほど大きい.その原因についての明白な説明はできなかった.上記の湿潤圧縮強度とV_αとV_βの合計との関係式を論拠
- 2002-03-25
著者
-
八戸 昭一
埼玉県環境科学国際センター
-
鈴木 隆介
中大・理工
-
鈴木 隆介
中央大学理工学部地学教室
-
小林 幸雄
首都高速道路公団 第二建設部
-
小林 幸雄
首都高速道路公団:中央大学大学院土木工学専攻
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