『パラーシャ』とツルゲーネフのミューズ
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概要
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1843年,24歳のツルゲーネフは長編物語詩『パラーシャ』(5脚ямб,69節全921行)を刊行した。この作品はいわば「文壇デビュー」作であり,ベリンスキーがこの作品を社会性の観点から高く評価したことは周知のことである。しかしながら,ベリンスキーの論評によってあたかもすべて言い尽くされたかのように,この作品の深層に言及し,ツルゲーネフの創作活動の源流を明らかにする具体的な論議はこれまでおこなわれていない。ところで今日では,ベリンスキーの高い評価を予期せず,「喜びよりも当惑してしまった」というツルゲーネフの回想が事実に反することが論証されている。ツルゲーネフはベリンスキーから出版を勧められ,書評を自らが書くことさえ伝えられていた。ところが,刊行に対する熱意はうかがうことができない。逆にベリンスキーの書評が発表された直後,『パラーシャ』に対する強い嫌悪をツルゲーネフは書簡で語っている。その真意は?ベリンスキー以後『パラーシャ』評価の定説となっている〈詩才〉や〈作品の社会性〉とは違う,なにか別の意味合いがツルゲーネフにはあったのではないだろうか?作品に点在する語り手の〈過剰な感情移入〉はどのように読み解くべきなのか?それらのことを解明する手がかりとして,ツルゲーネフのいわゆる「プレムーヒノの恋」に注目した。(1)1841〜43年に書かれた21編の詩作品の内,半数の10編は連作とも言うべき恋愛抒情詩であり,そのすべてにタチヤーナ・バクーニナとの恋愛が反映していることはすでに論証されている。(2)『パラーシャ』に直情的に述べられている語り手の感慨や追憶は,上記の恋愛抒情詩,その中でも特に『パラーシャ』と同年に書かれた2編に込められている感慨や追憶と極めて近い。(3)ヒロインのパラーシャには,多くの点でタチヤーナ・バクーニナとの相似を見いだすことができる。i.田舎育ちの令嬢という環境。共に「誰かに恋をするよう」,また「人生の苦悩を味わうよう」運命づけられている。物悲しげな愁いを帯びた顔という外貌や,内に激しい情熱を秘める気質。ii.ツルゲーネフが女性の魅力とみなしていたと考えられる「眼とそのまなざしのすばらしさ」を共に重要な長所として備えている。このような点を考えあわせるならば,『パラーシャ』は一連の恋愛抒情詩と同列の作品であり,タチヤーナ・バクーニナがパラーシャのモデルである可能性が極めて高い。(4)以上のように判断するならば,語り手の〈過剰な感情移入〉はツルゲーネフ自身の実体験に基づくものと読み解くことができる。『パラーシャ』を「プレムーヒノの恋」との関連を基に読み直すことにより,ツルゲーネフにとっては〈社会性〉とは異質な,私的な恋愛抒情詩であるという新しい作品理解が得られた。
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