汎愛派教育思想における Seele の位置づけについて : ドイツ啓蒙主義教育思想の再解釈の試みとして
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
J. F. ヘルバルトの規定以降, 近代教育学において, その方法的側面を心理学に負うということは, 自明のこととして認識されてきた. しかし, この心理学の位置づけは,教育方法論の洗練化のプロセスとしてではなく, 近代教育学における Seele をめぐる目的論的展開の帰結として歴史的に把握されなければならない. この論理を明らかにするために, 本研究は, Seelenlehe をその思想の基軸とする汎愛派における Seele の位置づけを解明することを試みる. 第1章では, 汎愛派の中でその思想が最も心理学的とされる J. H. カンぺの教育思想を検討した. 当時の文学の影饗による感傷主義に直面した彼にあっては, Seelenlehreは, 子どもに Seele を内面化するという観点から能力心理学的諸概念を子どもに教授することであった. この教授が神の存在と Seele の不死性双方によって目的論的に支えられるかぎりにおいて, それは宗教教授と不可分であった. 第2章ではC. G. ザルツマンをとりあげた. 彼はカンぺと問題対象を共有しながらも,カンぺとは異なる Seele 理解に立脚して. カンぺと異なる教授論を展開した. ザルツマンは, 啓示された社会関係としての Seele という理解に立って, 情操の教授の体系化を課題とした. とりわけ, 宗教教授についての彼の理念は, 信仰を啓示へと高めるという目的をもつことで,きわめて心理学的に方法化されることになった. 第3章において, これらの観点から汎愛派の中心人物J. B. バゼドウをふりかえるとき, 汎愛派教育思想における啓示と心理学の関係が, 彼において最も端的に現れていることが示された. バゼドウにあっては, 啓示された人間関係の目的論が彼の心理学のカテゴリーにとりこまれることによって, 啓示への信仰を子どもに教授することが可能となった. しかしながら彼の選択は, 彼以後の心理学に自己展開の動因を用意することにもなった. このように, 宗教的に正当化された社会関係をその思想の核とする汎愛派の教育思想においては, 心理学は, 教育の方法と内容の双方にまたがっていた. そこで Seele は, いわゆる心理学的な意味での「心」でもあり, 同時に神学的な意味での「魂」でもあった。ただし, この Seele は, それぞれの思想家において, その問題意識の相違によって, 心理学的方法主義と, 社会関係の形而上学的規定の間で, 多様な位置を占めることとなった. 啓蒙の教育思想がその根本要素としての Seele の多義性を失ってはじめて, 近代教育学はその成立の契機を得ることができた。社会的関係の形而上学的規定を放棄した後, 教育学は外在的目的論によって心理学的方法化を徹底されていくこととなったのである.
- 1997-12-30
論文 | ランダム
- オンライン・ショッピングシステムで収集したブラウジングデータに基づく, 顧客の製品選好度推定の一方法
- 新農業資材の適用性に関する研究 : Ⅰ シルバーストライプ入りマルチフィルムが小豆のウイルス病防除効果と生育収量に及ぼす影響
- C36 遠心羽根無しディフューザに生じる旋回失速の抑制に関する実験的考察(C3 流体工学(水力機械))
- サプライチェーンマネジメントにおける知的エージェント技術を用いた資源配分に対する-方法
- 新農業資材の適用性に関する研究 : Ⅱ.サナトラーゼ・グリーンがてん菜の生育収量に及ぼす影響