最適性統語理論 : この理論からどのような考え方が得られるか?
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概要
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本論文は、最適性統語理論(Optimality-Theoretic Syntax)の諸特徴を概観し、動的文法理論に基づく統語的分析や理論構築を行う際に、この理論からどのような有益な考え方が得られるかを論じるものである。Grimshaw(1997)やBresnan(1999)などに代表される最適性統語理論では、提案されている(違反可能な)諸制約そのものは普遍的であるが、制約どうしの順位づけ(Constraint Ranking)が言語ごとに異なるという主張がなされている。各個別言語においてこのような制約どうしの順序づけがどのように形成・習得され、実際にどう使用されるかについては不明な点が多いが、この理論には以下のような有望な考え方が含まれている。A.制約間の競争関係を認める。B.各制約自身は普遍的であるが、個別言語ごとに順序づけが異なり、同じ制約(例えばNo Lexical Head Movement)が言語A(例えばEnglish)では高い位置に、言語B(例えばFrench)では低い位置に順序づけられるというような違いを認める。C.制約に違反しても文法的な場合がある。D. Grimshaw(1997)などによれば、より高い位置の制約に違反するとその形式は不適格となり、(そのような制約にできるだけ違反しない)最適な形式が文法的なものとして生き残る。このように制約間には高低(強弱)の競争関係がある。しかし、このような制約間の競争関係を(否定的ではなく)むしろ肯定的に捉えて、より多くの制約や原理を満たす形式ほどより利用可能性が高くなるという具合に考えることができるかもしれない。 (このように考えると、より高い位置の制約が満たされているかどうかを注視しさえすれば文法性が決まるとは言えなくなる。)E.競争関係にある制約は必ずしも統語的なものに限られるわけではなく、それ以外の制約(例えば語用論的制約)も競合しうるものとする。すなわち、統語的制約も語用論的制約も互いに競争相手となり、これにより統語論と語用論との相互作用をより有効により統合的に捉えることができる。F.文解析(言語使用)により依拠した、すなわち、厳格な自律的統語論に拘束されない理論的枠組みを提供できる。G.形式と意味との連合(form-meaning association)を自然な形で捉え、最も基本的な形式と意味のペアからより派生的なものへの拡がりを明示できる見通しが出てくる。動的文法理論に基づく統語分析や理論構築を行う際には、以上のような最適性統語理論の考え方を他からの重要な根拠として引用かつ取り入れていく必要があると思われる。
- 宇都宮大学の論文
- 2001-10-01
著者
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