簿記理論とキャッシュ・フロー計算書
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概要
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資金計算書の簿記機構論的意味付けに関する試みを分類的に考察したものとして,1994年に安平昭二教授により遂行された研究(安平[1994])がある。本稿は,この研究を受け継ぐことによって,「第三の財務諸表」として制度上位置付けられたキャッシュ・フロー計算書が,(1)貸借対照表や損益計算書のように複式簿記的計算機構に存立基盤はあるか否か,(2)その位置付けについて簿記理論ないし簿記機構論的見地から,概念的に安定した内容を持つか否かという問題点について,とくに1994年以降の各種試みをもとに検討したものである。近年の試みは,主として「資金的二勘定系統説」のもとでの展開と「原型財務諸表行列簿記」による展開の2系統から成っている。これら個々の展開にはいくつかの特徴や試みの相互間に基本的な共通点もみられたが,「一元論」と「二元論」に二分化しうる複式簿記の意味構造の捉え方においては相対立する状況にある。この「一元論」・「二元論」の問題は,従来の勘定理論や簿記理論のあり方にも影響を及ぼす相違点のひとつでもある。簿記め「行列」表示に基づく試みもかねてよりひとつの系統による展開を形成している。展開表や「原型財務諸表行列簿記」の試みの原理ないし機能は類似しており,しかもいずれも損益等式型に属するものではあるが,キャッシュ・フロー計算書の「第三の財務諸表」としての位置付けについては見解の相違がみられた。このような近年の試みからの特徴を踏まえた場合,キャッシュ・フロー計算書の「第三の財務諸表」の位置付けに関わる本質的な問題は,各試みが依拠する勘定理論ないし簿記理論のあり方に帰結することになる。キャッシュ・フロー会計情報の有用性を否定するものではないが,「第三の財務諸表」としての位置付けの問題については勘定理論や簿記理論の見地からの複式簿記の本質や特徴についての解明が不可欠である。ひとつの方向性として,勘定理論ないし簿記理論研究への回帰が改めて必要とされている。
- 龍谷大学の論文
- 2002-11-30
著者
関連論文
- 趙益淳著, 『四介松都治簿法前史 : 〓〓〓〓固有簿記〓〓〓〓, 韓国語:図書出版〓〓(ヘナム), 2000年刊, iii+ix+310+18pages
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