高齢者の再就職過程に及ぼす社会保障・雇用制度の影響
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概要
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本稿では,キャリア職(最も長く勤めた職場)を定年等で,一度退職した後に再就職をしようという高齢者を「非自発的休養(者)」(直ぐに再就職するつもりだったのに期間を空けて再就職することになった)と「自発的休養(者)」(少し休養してから再就職しようと考え,そのとおりに期間を空けて再就職した)という,高齢者の再就職設計と実際の再就職までの期間を組み合わせた概念でとらえ,それぞれの状態にかんする定量的な分析を行った。データは,個人の職業経験などに関する詳細な回顧的情報を含むマイクロデータ(財団法人高齢者雇用開発協会『定年到達者の仕事と生活に関するアンケート調査(1992年)』)を使用した。二つの休養状態を含む,引退過程にかんする多肢選択ロジット分析の結果によると,(1)公的年金受給額の多い人ほど自発的休養状態になりやすい。他方,(2)教育程度の効果は,非自発的休養となう確率にはプラス,自発的休養となる確率にはマイナスと,非自発的,自発的の別によって異なる影響を与えていることが分った。ハザード分析(加速モデル)により,休養状態に入った人が再就職するまでにかかる期間についても検討を加えた。(3)非自発的休養期間の長さへ有意に影響を与えるのは,健康度,最も長く勤めた職場を58歳以前に退職,公的年金受給額の諸変数である。(4)自発的休養の場合は,休養期間に有意に短くする影響を与える企業年金受給額のみとなる。また,再就職する確率は12ヵ月目に急激に高くなる。こうした観察結果は,その当時認められていた雇用保険と在職老齢年金との併給等の影響を示唆している。非自発的休養の自発的休養のそれぞれについて再就職の経路を調べると,(5)非自発的休養の場合には再就職先を見つける場合に個人的なネットワークに頼った人の割合が少ないことが明らかになった。
- 慶應義塾大学の論文
- 2001-04-25
著者
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