貨幣性資産・費用性資産分類論の総合的検討 : 意味論的検討(2)
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概要
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会計処理とは,勘定に数値を割り当てるプロセスである。したがって,会計処理を行なうためには,勘定分類と測定規約とが不可欠である。今日,一時的所有の有価証券にかかわる測定問題が脚光を浴びているが,この点につき理論的に妥当な解決を見出すためには,まずもって,妥当な勘定分類(資産分類)の形成が要請されるものである。現在のところ,現行会計の説明に関し,貨幣性資産・費用性資産分類がもっとも理論的と目されており,これに従って測定規約が定められている。したがって,一時的所有の有価証券の測定問題を解決するためには,この資産分類の妥当性を,意味論レヴェル,狭義構文論レヴェル,そして語用論レヴェルにおいて総合的に検討しなくてはならないが,本論文は,そのうちの意味論的検討を企図している。その検討にさいして留意すべきは,貨幣性資産・費用性資産分類が,けっして,会計がア・プリオリに予定しなければならない前提ではないということである。そこで,本論文は,資産としては貨幣性資産か費用性資産かのいずれかしか存在しないという予断に囚われないこと(有価証券を,「貨幣性資産に属するか費用性資産に属するか」という形に限定して論議しないこと),および有価証券に限定せず広い視野から貨幣性資産・費用性資産分類の妥当性を考察することの2点に格別の留意を払いつつ,貨幣性資産・費用性資産分類の内在的問題点を考察することに努めた。前稿では,まず[I]土地および償却資産の残存価額部分の検討により,貨幣性資産とも費用性資産とも断定し難い貸借対照表の項目の存在を,次いで[II]貸付金の検討により,はっきり貨幣性資産でも費用性資産でも説明できない項目の存在を明らかにした。貨幣性資産・費用性資産分類のそうした問題性を認識した目で,これまで貨幣性資産としてまったく異論のなかった[III]売掛金を検討すれば,それすら,貨幣性資産には属さないことが判明したのである。本稿は,そうした知見を承けて,[IV]受取手形の検討により,これも貨幣性資産には属し得ないことを明らかにしたうえで,[V]一時的所有の有価証券の経済的性格を検討する。これについては,費用性資産説および貨幣性資産説が唱えられているが,そのいずれにも問題があり,貨幣性資産および費用性資産では説明できない第3の資産カテゴリーに属しているという結論に達した。結論的には,貨幣性資産・費用性資産分類は,意味論レヴェルにおいて,現行会計における貸借対照表借方項目を十全に説明することはできないというのが筆者の見解である。そして,その原因は,企業会計上の分類が[G-W-G']という国民経済に関するシェーマに依拠して形成された点にある。したがって,このシェーマを企業会計的に変容して,勘定分類を再構成しなければならない。それは,具体的には,山桝博士の提唱された企業資本等式[資本の待機分(貨幣)+充用分(商品・機械等)+派遣分(債権・投資)+費消分(費用)=資本の算段分(資本の元入れおよび借入れ)+蓄積分(留保利益)+稼得分(利益)]として定式化される。それによれば,資産は,待機分・充用分・派遣分の3カテゴリーに分類され,売掛金・貸付金・一時的所有の有価証券は,このうちの派遣分とみることによって,合理的に説明され得るのである。
- 1997-12-25