労働供給制約下における社会保障部門の拡大 (藤澤益雄教授退任記念号)
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概要
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高齢化とくに後期高齢層の増加は疾病や障害を持つ者の増加を意味し,保健医療や社会福祉(介護)サービスヘの需要増加をもたらす。これは労働集約的な社会保障部門就労者の増大傾向を意味しよう。また高齢化は1990年代後半に生産年齢人口の,また2010年までに労働力人口の減少を生ずる。すなわち高齢化は一方で社会保障部門による労働力吸収を促し,他方で労働供給総量の減少を引き起こす。従って限られた労働力総量を社会保障部門と他の一般産業部門との間に如何に配分すれば,両部門の最適な増加率の組合せを確保出来るか,というのが本稿の課題である。第1節では国際比較に基き,高齢化による社会保障部門就業者割合の上昇傾向を確認した。ここでの課題は社会福祉小部門就業者に関する統計情報の整備である。第2節では日本の1970〜1990年間における社会保障部門就業者の増加が,高齢化による大きな需要増を労働投入係数の低下,とくに保健医療部門への機器の導入による労働節約でかなり相殺した結果であることを示した。また医療費抑制政策が1980年代に比べ増加を小規模に留めたことも記した。ここでの課題は,公的部門や医療サービスの産出額あるいは質が直接的に捉えられない以上,補足的な指標を開発する必要である。第3節では,コブ・ダグラス型の単純化された社会厚生関数を労働供給節約下で最大化することにより,社会保障・その他一般産業両部門の2010年までの最適な成長率組合せを推定した。その結果,社会保障部門は一般産業より早い速度で拡大するが,高齢化に伴うパラメーターの僅かな変化は,前者のより大きな拡大に結び付くことを示した。また社会保障部門においても投入係数の上昇は,労働投入係数の低下を要請するが,特に社会福祉小部門におけるその実現は困難である。最後にこの種研究は開発の余地が大きい。
- 1996-08-25