予定外貨建輸入債務をヘッジ対象とする包括的長期為替予約又はクーポン・スワップに関するヘッジ会計の妥当性及び会計処理 (笠井昭治教授退任記念号)
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概要
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笠井昭次教授退任記念号将来発生する外貨建輸入債務をヘッジ対象とし包括的長期為替予約をヘッジ手段とするヘッジ会計の妥当性について,2003年に日本公認会計士協会から監査上の留意点が公表され,これに対し金融商品の販売業界からの批判論文が発表された。監査上の留意点の二つのテーマである,予定取引の妥当性及び包括的長期為替予約の会計処理について,両者の内容を,ヘッジ対象の性質,包括的長期為替予約の性質,包括的長期為替予約とヘッジ対象との対応関係,予定取引に係る主要条件の内容,及び会計処理(過去の通貨スワップの会計処理の経緯・考え方を含む。) の観点から検討した。その結果,まず,確定約定のない予定取引の発生が1年を超える場合,それが為替相場の合理的な予測に基づく売上と輸入に係る合理的な経営計画(通常3年程度) に含まれるものであって,当該取引に係る他の要素を吟味した結果,不確実性の高い現実の中であっても,主要な取引条件が合理的に予測可能であり,かつ,それが実行される可能性が極めて高い取引であれば,ヘッジ会計の対象として認められることになると考えられる。次に,予定輸入取引に係る外貨建債務(元本を有しないもの) のヘッジ会計においては,想定元本を前提としたクーポン・スワップ等と呼ばれる包括的長期為替予約の円貨のキャッシュ・フローには,契約期間前半に将来享受する直先差額の前受け又は借入部分があるため,そのとおり損益認識するのではなく,スポット取引の時価である先物相場に引き直して会計処理するか,又は金融商品会計実務指針のもう一つの処理を採用し時間的価値等の時価評価変動額は当期損益に計上すべきと考える。したがって,上記監査上の留意点が,1年以上の予定取引については一定の要件を満たしたものに限定すべきであり,会計処理として振当処理は認められず,包括的長期為替予約の契約レートと理論先物相場との差額は資産又は負債として繰り延べることになることに留意するとしたことは,会計の観点から妥当であり,その公表は,監査基準の趣旨に沿った適切な対応と考える。
- 慶應義塾大学の論文