<原著>腫瘍の移植免疫に関する実験的研究
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概要
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実験動物を腫瘍組織で感作したのち, 同じ腫瘍を再移植すると, 移植腫瘍の発育に対する抵抗性が招来されることが報告されている。そこで, 著者は, そのような抵抗性が動物の部位の如何により異なるかどうか, また, どのような機構により抵抗性が招来されるか等の問題を解明しようとして本研究を行なった。実験動物としては, DDD-系およびC3Hのマウスを用い, それらを宿主として継代移植したEhrlich腹水癌および同系統に発生せしめたMethylcholanthrene腫瘍の移植免疫について検討した。第1篇では, Ehrlich腹水癌で全身性に感作したマウスでは, 同じ腫瘍の再移植に対する発育抑制現象が招来されること, および局所性感作の場合には, 発育抑制現象が動物の部位により異なることを, リンパ節内移植法により証明した。この現象には, リンパ球の関与が重大意義を持つと考えられる。そこで, 第2篇では, 著者が考案した独自のDiffusion Chamberを用い, Ehrlich腹水癌で全身性に感作したマウスに同じ腫瘍を移植する場合にみられる発育抑制現象は, 主としてリンパ球を担い手とする細胞性抗体によるものなることを証明した。しかし, リンパ球の腫瘍細胞への直接的な接触がみられない場合でも, 腫瘍細胞の発育抑制現象が認められる。つぎに, 第3篇では, ChemotumorであるMC腫瘍で全身性に感作したマウスでは, 同じ腫瘍の再移植に対して発育抑制現象が招来されること, および局所性感作の場合の抑制効果は動物の部立により異なることを重ねて証明した。一方, このような現象に関与するものとしては, 免疫学的因子, すなわち, iso-anti-bodyが考えられ, その担い手としては移植部の組織学的所見からリンパ球を重視すべきであるとの結論に達した。さらに, 第4篇では, Diffusion Chamber法を用い, MC腫瘍で全身性に感作したマウスに同じ腫瘍を移植する場合にみられる移植腫瘍の発育抑制現象は, リンパ球を担い手とする細胞性抗体による免疫現象であることを証明した。リンパ球の腫瘍細胞への直接的な接触がみられない場合でも, 移植腫瘍の発育抑制現象が認められることは第2篇と同様である。以上により, 実験動物を腫瘍組織で全身性または局所性に感作する場合には, 腫瘍の移植免疫が全身性または局所性に成立すること, そのような免疫現象には, リンパ球を担い手とする細胞性抗体がつよく関与することが明らかになった。しかし, リンパ球が直接腫瘍細胞に接触しない場合でも移植腫瘍の発育抑制現象が認められた事実から, 感作リンパ球は, 標的細胞に直接的に密着してこれを破壊するだけではなく, いわゆる拡散物質を放出することによっても, 同様の作用を営むものと考えられる。
- 京都大学の論文
- 1968-03-30