<学位論文要旨>泥質岩の風化に伴う鉱物学的・化学的変化 : 島根半島第三系古江層と相代層および長崎県第三系加勢層を例として
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概要
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[序論] 泥質岩の風化は, 斜面の崩壊や建造物の歪み, 管材の腐植などを引き起こす主要な要因であることが広く知られており, その風化のメカニズムを解明することは, 人間の生活と密接に関わる重要な研究課題である。本論では, これまでに風化研究の例のない島根半島第三系古江層と相代層および長崎県第三系加勢層に含まれる泥質岩について, 鉱物組成, 交換性陽イオンの種類と量, その他の溶出し易い陽イオンの種類と量, および陽イオン交換能(CEC)が, 風化に伴ってどのように変化するのかを調べた。[調査地域概要, 露頭での風化状況および試料の採取] 研究対象は, 島根半島西部に分布する第三系古江層および相代層と, 長崎県北松浦郡鹿町町付近に分布する第三系加勢層である。これらの地層において, 泥質岩は色や粘土化の程度に基づいて3つの風化帯に分帯される。これらの風化帯を便宜上, 露頭の下部から地表面にかけてI帯, II帯およびIII帯と呼ぶ。I帯では, 全ての地層において泥質岩の色は黒色から黒灰色である。II帯では泥質岩の色は, 古江層および相代層においてやや白い黒灰色であり, 加勢層では褐色がかった黒灰色である。III帯では, 泥質岩の色は古江層および相代層において黄白色から茶褐色, 加勢層では茶褐色がかった灰白色であり, いずれも泥質岩は粘土化している。調査した露頭は, 古江層のF1とF2,相代層のA1とA2,加勢層のK1の計5地点である。F1とF2とでは全ての風化帯が, A1ではI帯が, A2ではII帯とIII帯が, K1では全ての風化帯が観察される。各露頭において, 各風化帯から1個ないし複数個の試料を採取した。[研究方法] 泥質岩の粉末をイメージスキャナーを用いて画像としてコンピュータに取り込み, 粉末の色をH値(色相), S値(彩度)およびB値(輝度)の要素によって表現し, 風化帯による泥質岩の色の違いが客観的にも認められることを確認した。泥質岩の風化に伴う鉱物学的変化を調べるために, (1)X線回折分析によって, 構成鉱物の同定を行った。(2)光学・電子顕微鏡観察(必要に応じてエネルギー分散型X線分析装置を使用)と, 示差熱分析(DTA)とによって, 泥質岩の風化において重要であるとされている黄鉄鉱の形態と存在の有無を調べた。泥質岩の風化に伴う化学的変化を調べるために, (1)全岩試料(全岩を粉末にした試料)について, 蒸留水による溶出実験を行い, 水に容易に溶出する陽イオンを定量した。(2)全岩試料と粘土試料(<2μmの粒子を集めた試料)とについて, 酢酸アンモニウムによる溶出実験を行い, 泥質岩中の交換性陽イオン・その他の溶出し易い陽イオンを定量した。(3)全岩試料と粘土試料とについて, 陽イオン交換容量(CEC)を測定した。(4)酢酸アンモニウムによる陽イオンの総溶出量とCECの比(Cation/CEC比と呼ぶ)を計算し, この値の変化から, 交換性陽イオンの風化に伴う変化と, 交換性陽イオン以外の陽イオンの存在とを判断した。溶出した陽イオンの定量にはICP発光分析法を用いた。測定元素はCa^<2+>, K^+, Mg^<2+>およびNa^+である。[結果と考察] 泥質岩の粉末の色を数値化して調べた結果は, 泥質岩の色が風化帯によって客観的にも異なることを示している。例えば, F1のI帯とII帯とでは, H値は共に赤-黄の範囲にあり, S値とB値はII帯でより高い値となる。これは, F1ではI帯と比べてII帯でより褐色化し, 黒の割合が減少していることを示している。また, F1のII帯とIII帯とでは, H値は同程度であるが, S値はIII帯で低く, B値はIII帯で高い。従って, F1では, II帯よりもIII帯で白色化しているといえる。同様にして, F2およびA1とA2では, I帯からIII帯にかけて褐色化し, 黒の割合が減少していること, および, K1ではI帯からIII帯にかけて褐色化し, 黒の割合は風化帯によって大きく変化しないことが明らかとなった。緑泥石は, 泥質岩の風化に伴ってバーミキュライト(またはスメクタイト)との混合層をつくりながら, I帯からIII帯にかけて段階的に変質するものと考えられる。このことは次の4つの理由によって示される。(1)X線回折分析の結果, 全ての露頭において, I帯では緑泥石が明確に認められるのに対し, II帯およびIII帯では, 緑泥石が少量であると判断される。(2)F1とF2では, 全ての風化帯でスメクタイトと緑泥石-バーミキュライト(またはスメクタイト)混合層が認められ, A2とK1では, II帯およびIII帯で緑泥石-バーミキュライト(またはスメクタイト)混合層とバーミキュライトが確認される。(3)酢酸アンモニウムに溶出するCa^<2+>とMg^<2+>の溶出量は, 共にI帯からIII帯にかけて減少する傾向にあるものの, Mg^<2+>ではその程度が相対的に小さく, 露頭によってはI帯からIII帯にかけて増加する場合もある。
- 2000-12-28