<学位論文要旨>脊椎動物の脳におけるニューロステロイドの生合成と作用に関する研究
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概要
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第1章序論 末梢内分泌腺が分泌するステロイドは,その脂溶性という物理化学的性状により,脳を保護する血液ー脳関門を通過して,脳にホルモンとして作用することができる。これまでステロイドは,末梢内分泌腺かつくるもので,脳はこのホルモンの標的器官として位置づけられてきた。例えば,生殖線が分泌する「性ステロイド」は,攻撃,求愛,交尾などの一連の生殖行動を誘起する。ところが最近,脳も独自にコレステロールをもとにステロイドを合成していることが明らかになった。この脳が合成するステロイドは,従来の「古典的ステロイド」と区別して「ニューロステロイド」と名付けられた。近年,ニューロステロイドに関する研究は世界的レベルで活発になされるようになったが,得られる情報は断片的である。本研究では,脊椎動物の脳におけるニューロステロイドの生合成と作用の解明を目的とした総合的かつ系統的解析を行った。第2章ラットの小脳プルキンエ細胞におけるニューロステロイド(プレグネノロンとプレグネノロン硫酸エステル)の生合成と作用 脳がニューロステロイドを合成することが明らかとなり,ニューロステロイドを合成する脳細胞を同定することがこの分野の最重要課題となった。まず,Baulieuらの哺乳類を用いた生化学的解析により,ニューロステロイドの主な合成部位はグリア細胞であることが示された。一方,Tsutsuiらの鳥類のウズラを用いた研究により,ステロイド合成の第一段階でコレステロールからプレグネノロンヘ変換する酵素であるコレステロール側鎖切断酵素(P450scc, チトクロームP450分子種の一種)に対する抗体を用いた免疫組織化学的な解析により,グリア細胞のみならずニューロンでもニューロステロイド合成がなされることが示された。そこで本章の研究では,哺乳類のラットを材料としニューロンにおけるニューロステロイドの生合成の証明を行った。ウシの副腎から精製されたP450sccに対する抗体を用いた免疫組織化学的解析により,ラットの脳の連続切片上で最も強く染色されたのは,小脳皮質の分子層と顆粒層の間に並ぶ大型の細胞であった。この細胞は形態染色とマーカー染色によりプルキンエ細胞であると同定された。本研究により初めて哺乳類のニューロンにおけるニューロステロイド合成酵素の存在が証明された。さらに,小脳プルキンエ細胞に局在するP450sccの発達過程における変動を明らかにするために,免疫組織化学的解析,ウエスタンブロット解析,RT-PCR法による遺伝子発現の解析を行った。その結果,P450sccは新生期,思春期,成熟期のいずれの時期においてもプルキンエ細胞に発現していることがわかった。また,P450sccの作用により合成されるプレグネノロンとその硫酸エステルが小脳に蓄積されていることもラジオイムノアッセイ法により確認した。続いて,プルキンエ細胞が合成するニューロステロイドの作用を,新生期のラットとウズラを用い電気生理学的に解析した。その結果,プルキンエ細胞から傍分泌されたプレグネノロン硫酸エステルは,プルキンエ細胞に投射しているGABAニューロン[抑制性伝達物質のγ-アミノ酪酸 (GABA) を含有するニューロン]に作用し,GABAニューロンの活動を高めることが見いだされた。プレグネノロン硫酸エステルは,このシナプスにおいてGABAによる情報伝達を修飾することが示唆された。第3章発達過程のラットの小脳プルキンエ細胞におけるニューロステロイド(プロジェステロン)の一過的な生合成 これまで,末梢ステロイド合成器官では,コレステロールをもとにプレグンネノロンが合成されると,プロジェステロンなどへの代謝が進むことが知られている。そこで,小脳のニューロステロイド合成経路を明らかにするためには,P450sccに加え,他の合成酵素の発現を調べる必要がある。第2章で述べたようにP450sccは生後の発達過程で常に小脳のプルキンエ細胞に発現していることがわかった。そこで本章の研究では,プレグネノロンからプロジェステロンを合成する酵素の3β-水酸基脱水素/△^5-△^4異性化酵素 (3β-HSD)の発現と酵素活性を発達過程のラットを用い解析した。RT-PCR解析の結果,3β-HSDのmRNAは新生期に発現が著しく高まることがわかった。さらに小脳スライスを用いて酵素活性を測定した結果,酵素活性も新生期に高まることが明らかになった。さらに,ラジオイムノアッセイ法により,新生期に小脳内のプロジェステロン濃度が高いことも確認された。続いて,in situハイブリダイゼーション法を用い,3β-HSD mRNAの発現部位を解析した。その結果,プルキンエ細胞と外顆粒層の細胞にmRNAが発現していることがわかった。この新生期の小脳では顕著な形態変化が起こっており,プルキンエ細胞を中心とした神経回路網が形成されることが知られている。3β-HSDが新生期特異的に発現するという結果から,プロジェステロンが小脳
- 1999-12-28
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