<学位論文要旨>アイゼンシュタイン積分のハリッシュ・チャンドラ展開の係数のガンゴリー評価とハリッシュ・チャンドラの C 関数の表示
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
第1章序論 ユークリッド空間上のフーリエ変換に関する公式を扱うことから始まった調和解析は,その後Gel'fand, Helgason, Harish-Chandra, Arthur, Trombi, Eguchi等により半単純リー群や対称空間上に拡張され数学における中心的なテーマの一つになった。この拡張はフーリエ変換を関数のカシミール作用素の固有空間への分解と解釈することに基づいており,フーリエ変換とリー群の表現論との深い結びつきを表している。調和解析の基本的な問題の一つに関数空間のフーリエ変換による像を決定するという問題がある。代表的なものはコンパクトな台を持つ滑らかな関数のフーリエ像を決定したPaley-Wiener定理であるが,関数空間としては他にも(L^p-)急減少関数の空間などが考えられており,一般にフーリエ像の決定問題はPaley-Wiener型の定理と呼ばれている。例えばK\G/Kの場合,Helgasonによって一部の未解決部分を残してPaley-Wiener定理が証明された。この場合フーリエ逆変換は帯球関数を掛けてPlancherel測度で積分することによって与えられるが,帯球関数は特別な群を除いて具体的に書くことができない。このためHarish-Chandraにより開発された帯球関数の漸近展開(Harish-Chandra展開)を用いることになる。この漸近展開の初項がHarish-Chandraのc関数でGindikin-Karpelevicにより具体的に計算されている。また漸近展開の第二項以降の係数の評価はGangolliにより与えられ,Gangolliはこの評価式を用いてHelgasonによるK\G/KのPaley-Wiener定理の未解決部分を解決した。我々は一般の半単純リー群で同様の問題を扱うために,一般の球関数(Eisenstein積分)に対してGangolli評価を拡張し,またSU(n, 1)の場合でHarish-ChandraのC関数の具体形を与えた。第2章主定理 Gを半単純リー群とし,G=KANをそのIwasawa分解とする。また他の記号はKnapp [2]に従うものとする。このときEisenstein積分は(1) [numerical formula]で与えられる。このEisenstein積分は帯球関数でKの単位表現の代わりに任意の既約表現を考えたもので,主系列の表現の行列要素を与える。またEisenstein積分の漸近展開も帯球関数の場合と同様の方法でHarish-Chandraにより与えられており,Harish-Chandra展開と呼ばれている。(2) [numerical formula] (3) [numerical formula] Harish-Chandra展開はEisenstein積分がカシミール作用素の動径成分から導かれる微分方程式を満たすことから得られたものであるが,この漸近展開の初項の係数C_τ(w : ν)がHarish-ChandraのC関数で,高次の係数Γ_λはこの微分方程式から導かれるある漸化式により順次決定される。一般のEisenstein積分の場合,この漸化式の中にKの既約表現を含む項が現れるため,係数の中にこの既約表現からくる極が現れることになる。Helgason, Johnson, Arthur, Trombi等は独立に漸近展開の係数にこの極を打ち消すような多項式を掛けることにより係数の一つの評価を与え,その評価をPaley-Wiener型の定理の証明の中で用いた。しかし彼らの評価は漸近展開の係数に多項式を掛けたものが指数増大度で押さえられることを示しており,Gangolliが帯球関数の場合に与えた評価より粗い評価となっている。我々はGangolliが行った方法をEisenstein積分の場合に改良することによって,Kの既約表現からくる極を打ち消す多項式を漸近展開の係数に掛けたものが,次のように多項式増大度で押さえられることを示した。定理1 ある多項式P_λ(ν), (λ⋴L)とD, d_1>0が存在して,すべてのν⋴Rに対して次が成り立つ。(4) [numerical formula]この定理によりHelgasonによるG/KのPaley-Wiener定理の簡単な別証明を得ることができる。またTrombiによる階数1の半単純リー群のK有限なL^p-急減少関数に対するPaley-Wiener型定理の簡単な別証明も得られている。Harish-ChandraのC関数はKnappとSteinにより開発された主系列の表現の間のintertwining作用素とも関連し,主系列以外の表現の主系列の表現の中への埋め込みを与えることができるので,リー群の表現論の中で重要な位置を占めるものである。Harish-ChandraのC関数の計算は階数1のリー群の場合に帰着できることが知られており,SU (n, 1)の場合での具体形を得ることが重要である。我々の方法は主系列表現の無限小作用素を具体的に計算することにより,Harish-ChandraのC関数の漸化式を作成することに依るものである。SU (n, 1)のHarish-ChandraのC関数の具体形は次で与えられる。定理2 μ⋴D_Mを最高ウエイトにもつ既約表現σ_μとλ⋴D_Kを最高ウエイトにもつ既約表現τ_λに対して,[τ_λ : σ_μ]≐̸0であれば,SU(n, 1)のHarish-ChandraのC関数は次で与えられる。
- 広島大学の論文
- 1998-12-28