光学効果の複合的組み合わせによる吸光光度法の高感度化に関する研究
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概要
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本論文において筆者は,レーザーの活用による,吸光光度法の高感度化の研究結果を示した。具体的には,以下の研究目的をもつ実験をした。1) 無幅射過程における,アゾ系色素の光熱変換過程の解明。2) 長光路セルを用いた,高感度吸光光度法の時間分解測定。3) 液晶を用いた,偏光吸収による熱レンズ効果の検討。以下に概要をまとめる。1章は,序論に当てた。2章は,無輻射過程における,アゾ系色素の光熱変換過程の解明を行った。分析化学的には,溶液の微少な吸光度の測定に利用され,吸光光度法を超高感度化する手段として熱レンズ法は注目されているが,従来から熱レンズ法によって得られる信号強度が,理論値を下回る場合が指摘されてきた。そこで,まず熱レンズ法を試す際,硝酸コバルト溶液と比較して,様々な色素が示す熱レンズ信号について実験を行った。硝酸コバルトは,理論値が示す熱レンズシグナルに等しい値を示した。しかし,アゾ色素は,エタノール等の有機溶媒中で,硝酸コバルトに比較して低い熱レンズシグナルを与える結果が得られた。この現象は,アゾ色素が光吸収により異性体化し,色素が吸収スペクトルを変化させる,フォトクロミズムが生じていることが考えられた。そこで,アゾ色素であるアシッドレッド27と硝酸コバルトを用い,アルコール/水などの混合溶媒を用いて,この効果について調べた。硝酸コバルトに対して,アシッドレッド27の熱レンズ信号は,水中では同程度であるが,溶媒にエタノールを用いた場合には大きな低下を示した。また熱レンズ信号の差は,混合溶媒中のエタノールの増加に伴い比例して大きくなった。ところが,溶媒として酢酸を用いた場合,混合溶媒中では,アシッドレッド27の熱レンズ信号は,硝酸コバルトの熱レンズ信号と同程度となった。この結果は,アゾ色素のフォトクロミズムが,水素イオン濃度の増加により消失すると考えることができる。一方,フォトクロミズムに由来する熱レンズ信号の低下について,アゾ色素の分子構造の違いによる影響も調べた。用いた色素は8種類のアゾ色素で,結果として熱レンズシグナルの低下は色素分子内のスルホニル基の数と対応していた。これは,水酸基が置換しているナフタレン環上ヘスルホニル基を置換することにより共鳴安定構造が増えることにより説明ができた。3章は,前章の熱レンズ法での測定中に見られる,アゾ色素の吸光度変化について,パルス光での長光路セルにおける吸光度の測定及び,時間分解測定を試みた。導波現象を伴う中空ファイバーを用いた長光路セルは,セルの材料よりも屈折率の大きい溶媒で満たした場合,光は,セル内部の溶媒-セルの界面において,全反射を繰り返しながら進行する。このため,比較的小さなスペースで,光路長を長くとることができる。従って,物質の微弱な光吸収に対して,高感度に吸光度が測定できる点に優れる。この長光路吸収法にパルス光を用いて,ナノ秒程度の時間分解の組み合わせを試みた。まず,測定の条件を求めるため,高屈折率の溶液で長光路セル内部を満たし,溶液の屈折率の違いによる,パルス光の半値幅と,パルス光の長光路セルの通過時間の変化を求めた。実験の結果,パルス光の半値幅は,溶液の屈折率に比例して大きくなった。一方,セルを通過するのに要した時間は,溶液の屈折率に比例して増加した。これを元に,パルス光の波形から長光路セルにおける吸光度の測定について検討を行った。長光路セルを通り抜けてきたパルス光のある時間tにおいて,吸収を持たない溶媒の光強度をI_<ot>,光吸収によって変化した光強度をI_tとして時間変化に対する吸光度を求めた。まず,色素にコバルトのアセチルアセトン錯体,スダンブルーを用いた場合,吸光度は時間に対して変化を示さず,吸光度も理論値と一致した。一方,,あらかじめフォトクロミズムを引き起こすことが報告されている,4-ニトロ-4'-ジメチルアミノアゾベンゼンと,その他4種類のアゾ色素について実験を行った場合,アゾ色素は,時間に対して,フォトクロミズムと考えられる吸光度の変化を示した。また熱レンズ法の時に用いた4種類のアゾ系色素は,熱レンズ法での測定結果と同様の,色素分子中のスルホニル基の数が多くなるほど,吸光度の変化が小さくなる置換基効果が観察された。4章は,2章の等方溶媒を用いた,熱レンズ法ではなく,異方性媒体である,液晶を用いた,偏光吸収による熱レンズ効果について検討した。流動性と分子配向性とを併せ持つ液晶を溶媒とすれば,溶質分子が棒状に近い構造であれば簡便に一方向に配向できて偏光吸収の測定が可能となる。
- 1997-12-28