<学位論文要旨>温帯林の二次遷移と群集構造
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概要
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第1章序論植物群落が時間にともなって変化する現象すなわち植生遷移は,生態学における重要な研究課題である。中でも二次遷移は主要なテーマで,この問題について今日でも精力的に研究が展開されている。特に北アメリカを中心に耕作地放棄後の二次遷移,森林伐採後の二次遷移など数多くの研究例がある。一方,森林の動態という点に着目すれば,極相林の更新という観点で研究が行われ,これまでに世界各地のさまざまな森林型において,その更新メカニズムが解明されつつある。日本の温帯の適湿地における極相林であるブナ林も,林冠ギャップ形成後の再生によって維持されていることがわかってきた。このような,北アメリカにおける二次遷移の研究,日本における極相林の研究の進展に対し,日本における二次遷移の研究はあまり展開していないように思われる。そこで本研究では,日本の温帯において森林伐採後の植物群集の発達過程を種個体群および群集レベルで解明することを目的とした。今日,極相林の多くは伐採され二次林となっている。今後の二次林の維持・利用・管理等を考えても,このような基礎的な研究は必要不可欠である。第2章遷移にともなう群集構造の変化遷移にともなう群集構造すなわち種数,種組成,立木密度などの変化の概略を把握することを目的とした。調査地は,広島県比婆山連峰である。人為的な伐採によって始まった二次遷移系列上の6種類の植物群集と極相林にそれぞれ15m×15mの方形区を設置した。林分内の木本植物は樹高3m以上のものを高木,それ以下のものを低木とした。木本植物については個体の樹高,胸高直径を測定し,草本植物については茎数を数えた。その結果,高木個体群の種多様性は遷移が進むにつれて減少していたが,林床の木本類も含めて木本個体群として一括すると,種数ははじめ増加し,遷移の中期で最も高くなった後,極相林で最も少なくなっていた。草本個体群では林床にササが密に存在する林分で種数・種多様度が減少しており,林床の草本類に与えるササの影響が大きいことがわかった。高木層の種数は林分が成長するにつれて減少し,極相林ではブナのみになっていた。低木層では,伐採初期には木本個体群の間ではまだ樹高が低いために階層の分化が起きておらず,低木性の種と高木性の種が同一の空間で生活している。これが遷移して樹冠が欝閉した後は,高木に被圧される低木性の種は個体数あたりの幹数を増やして個体を維持していた。高木性の種のうちいくつかの稚樹は閉鎖林冠下でも存在していた。これらの結果から,当地における遷移を概観すると,まず埋土種子に由来する低木性の木本類が優占し,その後林分が発達するにつれて初期の優占種は消えて行くが,高木性の種によって林冠層の種多様性は高くなる。さらに林分が成長するにつれて多くの種が脱落し極相林ではブナが優占する。日本のブナ林が世界的にみて特徴的なのは林床に低木類が豊富に存在することである。その林床の低木類は高木と生活型を異にすることによって,高木類と共存していると考えられた。第3章高木樹種の個体群構造立木の直径分布,分散構造,直径成長などの解析を大面積で行なうことによって,これまで不明瞭であった種個体群の構造を極相林と二次林で比較し,二次林の発達過程を推測することを目的とした。遷移中期二次林,遷移後期二次林,ブナ極相林に方形区を設置した。方形区の大きさは二次林ではそれぞれ50m×100m,極相林では100m×100mとした。この面積はこれまでの研究では数少ない大面積のものである。調査対象は樹高3m以上の木本全てで,調査項目は種名,胸高直径,階層,位置とした。構成種数は遷移中期の二次林で最も多かった。また,はっきりとした優占種が見られなかった。遷移後期の二次林での種数は中期に比べ減少していた。個体群密度は半減し,胸高断面積合計は逆に増加した。極相林は幹数は最も少ないが,胸高断面積合計は最も大きかった。また,ブナが優占していた。それ以外の種の胸高断面積合計は指数関数的に減少していた。群集の直径分布構造は逆J字型から二山型へ変化していた。ただし,二次林にも二山型の兆候が見られ,林分が発達するにつれてこの構造が顕著になることが示唆された。次に種個体群の直径分布構造を取り上げ比較した。出現した全種の胸高直径分布パターンを検討した結果,各調査区の特徴が把握できた。二次林では逆J字型の種から,直径の大きいものだけに個体があるベル型の種までさまざまなタイプのものが連続的に見られたのに対し,極相林では逆J字型の種とベル型の種に大きく分かれていることがわかった。これらの結果から,極相林と二次林の林分動態を考察した。
- 広島大学の論文
- 1995-12-28