<学位論文要旨>蛇行の河川地形学的研究 : 気候地形学的考察
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概要
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蛇行河谷の中にある小規模な蛇行河流を過小不適合河流というが,本研究の目的は,この過小不適合河流が中国地方に存在するのか,また存在するとしたら,不適合の程度はどれくらいかを調べ,蛇行を気候地形学的に研究することにある。より具体的には,流域面積と蛇行波長との関係を求め,アウトプットとしての蛇行波長から,過去の流量の復元や,現在の他地域の河川の流量の計算ができること,したがって,水資源からみた蛇行地形の重要性を指摘することにある。注目すべきことに,合衆国とイギリスにおける蛇行河谷の研究は,歴史的には実は過小不適合河流の研究の一部であった。過小不適合河流は蛇行し,しかもすべて蛇行河谷の中に存在している。このような,蛇行する場合の過小不適合河流を,一目でそれとわかるので「明白な過小不適合河流」と呼ぶ。一方,明白な過小不適合河流とは違うものもある。合衆国ミズーリ州のオザーク高原のOsage川の現河流は蛇行していない。しかし現河流には顕著な淵と瀬の連続があり,淵と淵との平均間隔は0.56マイルで,これを2倍すると潜在的な河流蛇行の波長ℓが求められ1.12マイルとなる。河谷蛇行の波長Lの平均は3.8マイルであるので,L/ℓの比は約3.5となり,この値は同じ地域の他の河流におけるL/ℓ比の範囲に入る。このような過小不適合河流を,「オーセッジ川タイプの過小不適合河流」と呼ぶ。このタイプの河流の過小不適合の程度は,河谷蛇行の波長Lと,淵と淵との間隔を2倍した潜在的な河流蛇行の波長1との比,L/ℓ比によって示される。次に過小不適合河流の水文学的古気候学的意味についてみる。蛇行の法則にみられるように,蛇行波長ℓは河岸満水時の流量qの平方根に比例し,この関係からQ/q比はL/ℓ比を2乗したものから導かれる。ここでQとqはそれぞれ,以前の大きい河流とそれに対応する現河流の流路形成流量である。中国山地の穿入蛇行の多くは,50万分の1地形分類図に緩斜面として示された平坦面の分布と一致する。すなわち高度400∿600mの吉備高原面を刻む穿入蛇行が全体の半分を占め,かつ地域的には吉備高原と石見高原に集中している。次に,接峰面図に現れる急斜面に対して必従的な流路をとる穿入蛇行が岡山県北の吉井川,旭川,高梁川上流河川にみられる点で注目され,これらは吉備高原面と脊梁面との境界部に発達している穿入蛇行で,全体の約3分の1を占める。瀬戸内面の広く分布する山口県には穿入蛇行は少ない。中国山地の,石灰岩を除く古生層地域と花こう岩地域の穿入蛇行を比較してみると,一般に花こう岩地域の穿入蛇行の方が蛇行帯の幅や谷幅が広い。湾曲度の頻度分布図でみると,古生層地域で平均1.96,花こう岩地域で2.10であり,また分散度がそれぞれ0.59,0.75と花こう岩地域の方が湾曲度が大きくしかもバラツキが大きい。以上のことは,花こう岩の方が一般に風化に弱いため,谷幅は古生層地域より速く広がる傾向にあり,また花こう岩地域には節理に制約された蛇行が多く,流路はしばしばジグザグのパターンをとり不規則で,従って湾曲度にもバラツキがでてくると説明されよう。これに反し古生層は多くの場合,花こう岩の粗な節理と比較すると組織が細かいため谷壁斜面は滑らかになり,蛇行流路もスムーズな規則性のある湾曲を描くと推定される。中国山地の穿入蛇行は,その他,流紋岩,安山岩,中生界及び第三系の砂岩,れき岩など,あらゆる岩石を切って発達しており,特定の岩石に対する選択はないようである。中国山地の穿入蛇行の波長と流域面積との関係は,次のような回帰式で表される。L=98.8A^<0.42>(相関係数0.900)ここで,Lは穿入蛇行の波長,Aは流域面積である。このように,中国山地の穿入蛇行の波長と流域面積との関係は,欧米のそれとほぼ同じ関数関係にある。また,中国山地の自由蛇行の波長は,穿入蛇行のそれとほぼ同じ値をとり,しかも欧米の自由蛇行の面積当たりの波長の約10倍である。このことは欧米と異なって現河流が小さく蛇行する明白な過小不適合河流がないことを意味する。しかしながら,オーセッジ川タイプの過小不適合河流は存在する。中国山地の主な河川についてオーセッジ川タイプの過小不適合の程度は,1.15から2.67の範囲にあった。さらに,小瀬川を例とするような河川争奪をした方の河川にも,オーセッジ川タイプの過小不適合河流が認められる点は重要なことである。太田川において,以下の式によって以前の流量を計算してみた。Q={(W/2.99)^<1.81>+(L/32.857)^<1.81>+0.83A c^<1.09>Ω}/3ここで,Qは以前の河岸満水流量,Wは以前の河床幅,Lは以前の蛇行波長,A cは以前の横断面積,そしてΩは現河流の湾曲度である。これで計算すると,以前の流量は3230m^3/secとなった。
- 広島大学の論文
- 1995-12-28