<学位論文要旨>西南日本内帯における三郡変成岩および中・古生層の変形構造とその形成過程
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概要
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西南日本内帯には,中・古生層や三郡変成岩が広く分布している。これらの地層の地質構造形成史は,近年,プレートテクトニクスによって説明されるようになった。西南日本の基盤岩類は,即ち,海洋プレートの運動に伴う付加体として形成されたものであり,付加体の形成およびこれらの地層が受けた変成作用は大陸側から大洋側へ累進的に発達したものと考えられるようになった。これらの研究の過程で,三郡変成岩を中心とした変成岩類の位置付けや分類についても新たな解釈が生まれてきた。その主要なものとしては,古生層の受けた低度の変成作用が220Maの三郡変成作用の最低変成度部と考えられるようになったこと,そして一括して三郡変成岩と呼ばれる地質体は,実際には,いくつかの異なる時期に形成された変成岩の集合体からなっているとする考えが生まれたことである。このような地質構造形成史のモデルについて検証をおこなうために,徳山市須万地域,鳥取県若桜地域,島根県三隅地域にひろがっている三郡変成岩を中心とした地層について変形構造の解析をおこなった。また,徳山市須万地域においては,泥質岩の粒径分離試料のK-Ar年代の測定もおこなった。この論文では,本研究によって明らかになったこととこれまでに報告された研究成果とを考えあわせて,西南日本内帯の地質構造形成史のモデル化を試みた。西南日本内帯の先白亜系の地層は低度の変成作用を受けた中・古生層と三郡変成岩とからなる。中・古生層は,便宜的に,上位から下位へ,秋吉帯,舞鶴帯,超丹波帯,丹波帯に区分される。秋吉帯の最終的な堆積年代は古生代末であり,石灰岩や緑色岩,陸源砕屑物からなっている。舞鶴帯は古生代末の陸源砕屑物や緑色岩からなり,夜久野岩類を特徴的に挟む。超丹波帯は古生代末の地層であり,陸源砕屑物や緑色岩類からなる。丹波帯はジュラ紀の地層からなり,陸源砕屑物や多量の層状チャートからなっている。これらの中・古生層はプレートの運動に伴う付加体であると考えられている。三郡変成岩は低温高圧タイプの変成作用を受けており,陸源砕屑物や緑色岩類からなっている。三郡変成岩は変成年代の異なる幾つかのユニットからなるとする考えがあり,それらの変成作用の時期は約300Maを示すもの,約220Maを示すもの,そして約180Maを示すものからなると考えられている。また,古生層である秋吉帯の受けた変成作用は約220Maの三郡変成作用の最低変成度部であると,一般には考えられている。山口県東部徳山市須万地域には都濃層群(三郡変成岩)と錦層群(低度変成古生層)が分布している。錦層群は約220Maの三郡変成岩の最低変成度部と考えられ,変形構造,変成作用共に都濃層群と漸移するものと考えられてきた。しかしながら,後に述べるように,両者の受けた変形・変成作用は異なるものであると考えられる。都濃層群(三郡変成岩)は形成時期の異なる5回の変形(D_1-D_5)を受けている。最初の変形(D_1)は等斜褶曲(F_1)や片理面(S_1)を,2回目の変形(D_2)は閉じた褶曲(F_2)とちりめんじわへき開(S_2)を,3回目の変形(D_3)は開いた褶曲(F_3)とちりめんじわへき開(S_3)をそれぞれ形成している。4回目の変形(D_4)によって東西系の軸を持つゆるやかな褶曲(F_4)が,5回目の変形(D_5)によって東北系の軸を持つゆるやかな大褶曲が形成されている。一方,錦層群(低度変成古生層)は形成時期の異なる3回の変形(D_<N1>-D_<N3>)を受けている。最初の変形(D_<N1>)は閉じた褶曲あるいは開いた褶曲(F_<N1>)とスレートヘき開(S_<N1>)をつくっている。2回目の変形(D_<N2>)は東西系の軸を持つゆるやかな大褶曲(F_<N2>)を,3回目の変形(D_<N3>)は南北系の軸を持つゆるやかな褶曲(F_<N3>)を形成している。D_1,D_2,D_3は都濃層群にのみ形成され,D_<N1>は錦層群固有の変形である。都濃層群におけるD_4,D_5は,それぞれ錦層群のD_<N2>,D_<N3>に対比される。都濃層群と錦層群を境する北山断層に沿って,初期に形成された延性的なせん断と後期に形成された脆性的なせん断の存在が確認された。初期の延性的なせん断はマイロナイトあるいはプロトマイロナイトを形成し,後期の脆性的なせん断はカタクラサイトを形成している。都濃層群は両者のせん断を受けており,錦層群は脆性的なせん断のみを受けている。マイロナイトでは上盤北ずれのセンスを持つS-C構造が認められる。従って,北山断層は低角正断層であると推定され,D_3,D_<N1>の後,D_4(D_<N2>)よりも前に活動したものと考えられる。鳥取県若桜地域と島根県三隅地域には変成岩類が分布しており,それらの変形構造について以下に記載した。鳥取県若桜地域には八東層(三郡変成岩)と角谷層,智頭層(ジュラ紀付加体)が隣接して分布している。
- 広島大学の論文
- 1994-12-28
著者
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