<学位論文要旨>日本のマント群落に関する植物社会学的研究
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概要
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第1章植生単位としてのマント群落 一般に森林植生の林縁部には森林とも草原とも異なった相観・種組成を持つ植生がみられ,林縁植生と呼ばれている。林縁植生の中で森林に接した,つる植物や木本植物からなる植生はマント群落と呼ばれる。マント群落という語は群落の相観,形態,生育立地に基いた概念であり,その定義は比較的明瞭である。それにもかかわらず,これまで植生研究の中で扱われた例は極めて少ない。マント群落の研究の困難さは,マント群落における組成的な「核」の抽出の困難に起因するところが大きい。マント群落を植生研究の対象とする際,マント群落に固有な組成群を抽出する必要があるが,これは,地域の植生に対する網羅的な調査(村上, 1982-1990)を同時に進めることにより可能となった。マント群落の固有構成種としては,本州以北ではRubus, Rosa, Wisteria, Loniceraなどが挙げられるが,これらの種群によって特徴づけられる植生は植物社会学的にはノイバラクラスRosetea mutiflorae Ohba, Miyawaki et Tx. 1973に包含されている。マント群落の原語はTuxen(1950)が示したMantelgesellschaftである。日本においては宮脇(1960)によって「マント群落」という訳が与えられた。大場・菅原(1980)はノイバラクラスの仮の群落体系を提案したが,日本全国に及ぶ網羅的な研究はこれまで公表されていない。また欧州においては,マント群落の研究は1950年代から進められ,群落体系の整備も進んだ。しかし,欧州は日本に比ベマント群落の植物相が1/3∿1/10に過ぎず,欧州における研究を規範とは出来なかった。本研究は現在のところ最も植物相の豊かな地域で行ったマント群落の研究と考えられる。本研究は以下の4点を把握することを目的に行った。1. 日本のマント群落の全体像(日本全域のマント群落の類型化),2. 各マント群落と気候,植生帯などのマクロな環境条件との関係,3. マント群落各植生のミクロな立地環境との対応,4. マント群落における組成と環境との関連(総合考察)第2章日本におけるマント群落-植生単位およびその群落体系- 植物社会学的方法(Braun-Blanquet, 1964; E11enberg, 1956)により,日本のマント群落の植生単位を抽出した。植物社会学的方法は,表操作により植生の種組成の比較を行い,標徴種・区分種により同定される植生単位を決定するものである。植生単位の記載は国際命名規約(Barkman, Moravec and Rauschert, 1986)に準拠した。植生調査資料(アウフナーメ)は日本国内で収集された未発表資料および既発表資料,約1100を用いた。抽出された植生単位は以下の通り。ノイバラクラス 九州∿北海道の林縁,海岸砂丘などに生育する低木一つる植物群落。夏緑性の植物を主たる構成種とし,ヤブツバキクラス域からコケモモートウヒクラス域まで分布する。スイカズラ-ヘクソカズラオーダー(新称・仮) 本州から九州にかけての低地のほぼヤブツバキクラス域(常緑広葉樹林域)に生育するマント群落。海岸や湿原辺などに分化した群集を含む。以下の3群団により構成される。エビヅル-センニンソウ群団 海岸,大河川の下流部,沖積平野,農耕地周辺などの向陽地に生育するマント群落。低海抜地に多い。九州以南,本州北端を北限とする。9群集(新記載の3群集を含む),2群落が所属する。ボタンヅル-モミジイチゴ群団 丘陵から低山にかけての半陰の林縁に生育するマント群落。ヤブツバキクラス域上部からブナクラス域下部に生育する。15群集(新記載の7群集を含む),6群落が所属する。イソノキ-ウメモドキ群団(新称・仮)湿地性の低木群落。低海抜地のミズゴケ類,ヨシなどの湿原の周辺に多い。本州のヤブツバキクラス域からブナクラス域下部に分布する。2群集が所属する。ミヤママタタビ-ヤマブドウオーダー(新称・仮)九州以北のブナクラス域からコケモモ-トウヒクラス域下部に生育する夏緑性マント群落。本州以南では山地生で,北海道ではほぼ全域に分布する。以下の1群団が所属する。ミヤママタタビ-ヤマブドウ群団ミヤママタタビ-ヤマブドウオーダーと同様の内容を持つ群団。九州以北のブナクラス域∿コケモモ-トウヒクラス域下部に生育する。10群集(新記載の5群集を含む),3群落が所属する。ノアサガオ-タイワンクズクラス(新称・仮)日本では南西諸島,小笠原諸島を北限とし,東南アジア熱帯に広く分布すると考えられる熱帯系のマント群落。ノアサガオ,タイワンクズなどを標徴種とする。Caesalpinia, Bauhiniaなどの常緑性のマメ科つる植物を優占種とする。以下の1オーダーが所属する。ノアサガオ-タイワンクズオーダー(新称・仮)クラスと同様の内容を持つオーダー。以下の2群団が所属する。リュウキュウウマノスズクサ-リュウキュウボタンヅル群団 南西諸島および小笠原諸島に生育するマント群落。一般に常緑性のつる植物が卓越する。
- 1994-12-28
著者
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