<学位論文要旨>認知欲求が情報処理活動および態度変容過程に及ぼす影響
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本研究の目的は,認知欲求の特徴を明確化するとともに,認知欲求が情報処理活動および態度変容過程にどのような影響を及ぼすのかを検討することであった。第1章序論では,まず認知欲求の定義を行った。認知欲求とは,情報処理に関わる個人特性であり,「努力を要する認知活動に従事したり,それを楽しむ内発的傾向」と定義づけた。次に社会心理学におけるパーソナリティ研究について述べ,この枠組みにおける認知欲求の位置づけを明らかにした。そして,従来の認知欲求を概観した後で,その問題点を指摘し,本研究の目的を述べた。第2章では,情報処理に関わる他の個人特性や情報処理能力と関連する言語性知能との関係性を明らかにした。そして,認知欲求が情報処理に関わる個人特性としてどのように特徴づけられるのかを検討した。まず研究1では15項目からなる日本語版認知欲求尺度を作成した。そして,この尺度の信頼性および因子的妥当性を確認し,さらに個人差を測定する尺度として十分に利用可能であることを明らかにした。研究2では,認知欲求と情報処理に関わる個人特性,つまり感覚希求,セルワ・モニタリング,刺激透過性との関係性について検討した。その結果,認知欲求はこれらの特性と独立したものであることが明らかになった。個人内の情報処理過程を,入力段階⇾処理段階⇾出力段階として捉えた場合,研究2の結果はつぎのことを示唆した。つまり,感覚希求と刺激透過性はどのような情報や刺激を入力するかといった情報入力段階での個人特性として,セルフ・モニタリングは入力情報を処理した後の行動段階つまり出力段階での個人特性として捉えられる。これに対して認知欲求は,入力された情報を精査しようとしたり,有意味なものとして統合しようとする欲求であり,入力した情報をどのように処理するかという処理段階の個人特性である。従って処理段階の個人特性である認知欲求は,入力段階や出力段階に関わる個人特性とは独立して機能することが示された。研究3では,認知欲求と言語性知能との関係性を検討した。その結果,認知欲求と言語性知能との間には特定の関係性がないことが明らかになった。つまり,認知欲求も言語性知能も情報処理に影響を及ぼす要因ではあるが,認知欲求は情報を処理しようとする動機づけと関わる個人特性であり,情報を処理する一般的な能力とは区別されることが明確化された。以上に示したように第2章では,認知欲求を情報処理に関わる個人特性という観点からその特徴を明確化できた。本章で得られた知見は,従来の研究では検討されていなかったこと(研究2)や,明確にされていなかったこと(研究3)であり,認知欲求を理解する上で重要な概念的枠組みを与えた。第2章を通じて認知欲求の概念的特性が明確化されたことから,第3章では,認知欲求が実際の情報処理にどのような影響を及ぼすのかが検討された。このため,情報処理をパフォーマンス・レベルと認知レベルから捉え,認知欲求がこれらの情報処理にどのように影響を及ぼすのかを実験的に検討した。まず研究4では,認知欲求がパフォーマンス・レベルの情報処理に及ぼす影響を検討するために,意思決定課題を用いてこの目的の検討にあたった。その結果,認知欲求は情報処理時間や情報検索量,あるいは意思決定方略には影響を及ぼさないことが示された。つまり,認知欲求はパワォーマンス・レベルの情報処理には影響を及ぼさないことが明らかになった。研究5では,認知欲求が認知レベルの情報処理に及ぼす影響を検討するために,プライミング効果を通してこの目的の検討が行われた。その結果,先行課題を意識的に処理した場合,後続課題の印象評定において高認知欲求者は低認知欲求者よりも先行課題で処理した概念の影響を受けやすいこと,つまり先行課題で概念の活性化レベルがより高められていたことが示された。このように,高認知欲求者が先行課題として認知的な努力を要する意識的課題を処理した場合にプライミング効果がみられたことから,認知欲求は認知レベルの情報処理に影響を及ぼすことが明らかにされた。以上に示したように第3章では,実験的に検討を行った結果,認知欲求が影響を及ぼすのはパフォーマンス・レベルの情報処理ではなく,認知レベルの情報処理であることを明らかにした。認知欲求は,情報処理に関する動機づけに影響を及ぼす要因として捉えられてきた。しかし,従来は,認知欲求が情報処理のどのような側面に影響を及ぼすのかは詳細に検討されていなかった。第3章では,こうした点を実験的に明らかにしたといえる。また,認知レベルの情報処理が認知欲求の影響を受けるという知見は,以下のことを示唆した。
- 1993-12-31
著者
関連論文
- 児童の愛他的態度育成のための継続型直接体験授業の効果
- 明日を担う生徒を育てる学校教育の創造(4) : 表現・コミュニケーション力の育成と評価
- かかわる力を育む幼小一貫の道徳教育カリキュラム開発のための基礎研究(2)
- 在日留学生に必要なソーシャル・スキル
- ピア・サポートの評価--ピア・サポートと実践研究の発展のために (ピア・サポート--子どもとつくる活力ある学校)
- 児童の情動知能が学校適応感に及ぼす影響--学校適応の三水準モデルを用いた検討
- 学校及び児童生徒支援活動を通して育成される教師としての臨床的指導力に関する研究 : 広島大学における「特色ある教育実習プログラム」提案を受けて
- 臨床的指導力育成のための初等教育教員養成カリキュラムの開発に関する研究 : 広島大学における「特色ある教育実習プログラム」提案を受けて
- 中学生の心理・社会的発達度尺度の作成
- 現職教員の生徒指導・教育相談の力量形成のための研修プログラムに関する研究(2)アセスメント力を中心に
- 明日を担う生徒を育てる「総合的な学習の時間」のあり方 : 「表現・コミュニケーション力」に焦点を当てて
- 児童生徒における情報活用の実践力と情報モラルの関連
- 児童生徒における情報倫理意識と規範意識の関係
- 附属学校園と地域社会との教育連携に関する研究(3)学校週5日制を生かした地域社会との教育連携における新しい附属学校園のあり方を展望して
- 附属学校園と地域社会との教育連携に関する研究(2)授業日における教育連携の取り組みを中心に
- 附属学校園と地域社会との教育連携に関する研究(1)休業日における附属の子ども達の現状と課題
- 問題解決に生きてはたらく力を育成する理科学習の創造(2) : 粒子モデルを用いた小中一貫の科学的概念の育成
- 問題解決に生きてはたらく力を育成する理科学習の創造
- 問題解決能力の育成を目ざした学習指導法に関する研究(3) : 自己効力感を高める理科授業の方略
- 認知欲求が情報処理活動および態度変容過程に及ぼす影響
- 熟考度と態度変容に及ぼす認知欲求とディストラクションの効果〔英文〕
- 態度変容と印象形成に及ぼす座席配置の効果
- かかわる力を育む幼小一貫の道徳教育カリキュラム開発のための基礎研究(4)
- PF52 異年齢・異校種間交流の効果に関する研究(1)(社会,ポスター発表F)
- かかわる力を育む幼小一貫の道徳教育カリキュラム開発のための基礎研究(3)
- 生活科におけるキャリア教育の構築III
- 生活科におけるキャリア教育の構築II
- 児童生徒における情報倫理意識と一般的規範意識の関係
- 認知欲求尺度に関する基礎的研究
- 児童生徒における情報倫理意識と規範意識の関係 (コミュニケーションを重視した教育実践と情報モラル教育)
- 臨床的な指導力育成のための初等教員養成カリキュラムの開発に関する基礎的研究
- 児童・生徒の情報リテラシーの認知的基礎に関する研究--情報モラル課題と情報活用能力,批判的思考態度の関連
- 現職教員の生徒指導・教育相談の力量形成のための研修プログラムに関する研究
- 問題解決に生きてはたらく力を育成する理科学習の創造(3)小学校理科単元「大地の創造」の開発
- 映画刺激の単純性-複雑性と認知欲求が映画に対する評価に及ぼす効果に関する研究
- 問題解決能力の育成を目指した学習指導法に関する研究(2)比喩的表現や思考を生かした理科学習の試み
- 問題解決能力の育成を目指した学習指導法に関する研究--見通しを持って自ら進める理科学習の創造
- 児童生徒における情報倫理意識と規範意識の関係