<学位論文要旨>環境科学的データ解析手法の研究
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概要
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環境の相互依存性い(interrelations)に関して得られている知識は,環境中で複数の要因が同時に作用している多次元的な本質(multi-dimensionality)によって,昨今の二酸化炭素排出抑止に関する論議の例を引くまでもなく,驚くほど不足している。環境の相互依存性と因果関係について実測されたデータを用いて解析して,とりわけ定量的に論議の基盤を提示する必要性が存在することは,明白である。計量的な立場からの定義として"環境"は,実験計画法の適用が事実上困難であって,相互に依存して確率的に変動する,多変数の同時の観測面をもつ対象である,と意味づけることができる。このような対象の中から,事後的・帰納的に,定量的な法則性を見い出す解析手法を確立することが,本研究の目的である。そのためには,環境の観測面に関する多様な測定データを入手し,それを解析に適したデータファイルの構成に変換する必要がある。しかし,研究者みずから取れるデータの種類と量には限度があり,データの存在する空間的な範囲も限られている場合が多い。さいわい,国土数値情報,大気汚染・気象等のモニタデータ,地球観測衛星データ,国勢調査・工業統計・農林業センサスなどの指定統計データが,大量に,かつ急ピッチで集められている。これらの情報には,環境全般(自然,社会,経済等)にわたっての多種多様な数多くの統計的データが含まれている。また,本研究の解析の目的に適した機械可読型データである場合が多い。それらは,環境のデータ解析に好適である。それらのデータのうち,標準地域メッシュデータ(格子状方形小区画データ)及びリモートセンシングデータを用いて解析を行うことは,統計量の空間的な分布の把握を可能とする。このことによって,統計量のみの解析に対して,新たに常識的・体系的な視点を付加することができる。本研究のデータは,このため,標準地域メッシュデータ,及びリモートセンシングデータを中心とした。以下,論文各章毎の内容を要約する。1.総合解析データファイルの作成 個別的な細分化された調査研究領域のみではなくて,それらの複合された環境中の関連性を解析する場合,それに適合したデータファイルの構造は,比較的に限定的なものとなる。それは,データを反映する区画同士の整合性を基本とすることであり,行政区画,メッシュ,統計調査区,単位流域,国家単位などの,各々のデータが採取された共通の空間的要素のデータを基盤とすることである。本研究では,総務庁統計局,建設省国土地理院,国土庁(メッシュ化委員会),農林統計協会,海上保安庁水路部などが作成したファイルの2,000を超える変数を標準地域メッシュを主体として連結し,他に座標点毎・単位流域毎のデータも,変換により,同時に使用できるように工夫した。このことによって,第3の変数や潜在変数の影響を考慮する必要が軽減して,おもな環境因子を具体的に単離・発見したり,逆に組み合わせて,変数間の相互の関連性を見い出し易くできる。2.リモートセンシングデータ解析システムの構成 特定の研究室等に限定されず,また大学構成員であれば誰でもが使用できる施設として,本研究は大学計算機センターのホスト計算機及び端末を活用した。最近の主流となったインテリジェント端末(パーソナルコンピュータ)の強力なローカルグラフィック機能と,ホスト(大型計算機)の高速なデータ処理能力の両者を結合させることにより,大量の統計計算と高速な画像表示を両立させることができた。このシステムはMOS-1,Landsat MSS, TM,NOAA,航空機等のマルチスペクトルスキャナー(MSS)型ディジタルデータ全般について,各種の統計解析・画像表示をする事ができる。3.リモートセンシングデータ分類手法別精度の検討 建設省国土地理院作成の国土細密数値情報を,画素対画素で一致するようにLandsat MSSデータと併合した。このことによって,地上調査データを分類基準データとして,Landsatデータのサブシーンを全てカバーできるので,試験領域の全数調査をすることができる。このため分類基準データの量的代表性を考慮しつつ,広義の最尤法に関する8分類手法別・試験領域(母集団)内での分類基準データ(標本)の大きさ別の,計16条件の比較検討をおこなった。その結果,昭和54年の埼玉県川口市近辺の,土地被覆形態が複雑で多様な192平方キロメートルを試験領域とした場合,適用した分類手法・分類条件によって,各土地被覆項目に対する分類精度に大きなばらつきがあり,また,各分類区分の試験領域中における相対度数である事前確率を,その出現頻度に比例してあてはめた場合に,出現頻度を等しいとした場合と比べて,全体として約10∿15パーセント精度が向上することが判った。
- 1992-12-31