<学位論文要旨>アフリカツメガエルの卵形成期にみられる分布特異性細胞質抗原の同定とその解析
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概要
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両生類の初期発生においては,各割球の運命を定める決定因子がきわめて重要な働きをするが,その存在を裏付ける強力な実験証拠があるにもかかわらず,実体は未だ明らかになっていない。理由としては,化学的な性質が不明であることと,卵の中に少量しか含まれないことがあげられる。本研究では,決定因子の実体を知るため,決定因子をタンパク質であると考え,卵の細胞質中に極性分布を示すタンパク質抗原の存在を明らかにすることを目的とした。決定因子は,未受精卵の細胞質中にあらかじめ偏って存在するように用意されており,受精後の初期卵割の際に,各割球に不均等に分配され,各割球の運命を定めると考えられているからである。実験動物にはアフリカツメガエル(Xenopus laevis)を選び,手法としては,モノクローナル抗体を多数作製して極性分布抗原認識の抗体を選別し,解析に用いることにした。モノクローナル抗体作製には,通常ある程度精製した抗原を必要とするが,本研究の求める決定因子については不可能であり,いわばバルクな抗原を用いざるを得ない。そこで,卵黄タンパク質が含まれない初期卵母細胞,および未受精卵のS100分画を免疫抗原とし,ハイブリドーマ細胞のスクリーニングの段階で,特異的な抗原認識の抗体を選別することにした。マウスの免疫とハイブリドーマ作製は定法に従って行い,前者の免疫抗原から123個,後者の免疫抗原からは342個のモノクローナル抗体産生のハイブリドーマを得た。これらの産生する抗体について,まず,それぞれの免疫抗原に対するELISA法によるスクリーニングを行い,免疫抗原を認識する抗体を選択し,次に卵巣切片に対する免疫組織化学的染色によるスクリーニングを行った。アフリカツメガエルは1年を通して産卵が可能な両生類であり,その卵巣内にはさまざまな発生段階の卵母細胞が多数存在する。また,各発生段階の卵母細胞には形態学的な極性が認められ,切片上に観察される卵母細胞の断面の位置を判断できる。従って,卵巣切片を用いたスクリーニングは,卵形成期において時期特異性を示す抗原や,卵母細胞質中に特異的な分布を示す抗原の存在を明らかにする抗体の選別に好適であった。そしてこの結果,時期特異性を示す抗原を認識するモノクローナル抗体を2群10個,分布特異性を示す抗原を認識するモノクローナル抗体を4群22個,得ることができた。これらの抗体については,免疫抗原を用いたウェスタンブロッティングによって,それぞれが認識する抗原とその分子量を確認した。分布特異性を示す抗原を認識する抗体は,type A(動物半球の細胞質を認識), type V(植物半球の細胞質を認識), type P(細胞質の周縁部を認識), type N(核質を認識)の4群に分けられた。type P, Nは卵形成期を通して部域性を示し続けたが,type A, Vは,卵形成期中期以降(st.IV-VI)に部域性を示すことがわかった。また,成熟卵母細胞における3次元的な分布を検討した結果,さらにA_1,A_2,V_1,V_2と分類されることが判明した。さらに,動物および植物半球の断片から抽出したタンパク質を用いてのウェスタン・ブロッティングの解析によっても,これらの極性分布が確認できた。また,発生を開始した胚(胞胚期胚)を用いて,免疫組織化学的染色の解析を行なった結果,これらの抗原が初期胚においてもその極性分布を維持していることが判明した。以上の免疫学的手法による解析の結果,卵形成期におけるタンパク質の細胞質への蓄積が,時期特異的にそして分布特異的になされる様子が明らかとなった。タンパク質蓄積の過程は,現在までよく知られておらず,このように個別に解析して得られた知見は重要である。また,特異的分布抗原の中でも,動植物軸性に沿った分布を示す抗原はさらに4群に分類され,それらの分布特性から卵の細胞質にはA_1/V_1,A_2/V_2の抗原分布を分ける境界があることが考えられた。また,胞胚期においても分布が変わらないことが確かめられ,初期発生において各割球に偏って分配される抗原であることが示唆された。
- 1992-12-31
著者
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田畑 純
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
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田畑 純
金沢大学環日本海域環境研究センター
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田畑 純
広島大学生物圏科学研究科:(現)大阪大学・歯学部・第一口腔解剖学教室
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田畑 純
鹿児島大学歯学部口腔解剖学講座第一
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