<原著>胎生期硫酸カドミウム投与によって成立した先天性無眼球症ラットの視覚路 : I.視交叉上核と外側膝状体背側核
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概要
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MPlアルビノ・ラットの妊娠8.5日に3mg/kgの硫酸カドミウムを単一腹腔内投与して得られた7例の両側性(BA)と11例の一側性(UA)の無眼球症の雄を60日間成育した後, 視神経の有無, 視交叉部での視神経線維の交叉率, 視交叉上核(SCN)と外側膝状体背側核(dLGN)の形態について光顕による組織学的観察を行なった。さらに, SCNとdLGNの体積と細胞密度について定量的解析を行なった。両側性無眼球症(BA)ラットでは両方の視神経と視索は欠損していたが, 正常ラットの視索存在部に対応する間脳腹側部に種々の量の起源不明の神経線維束が存在したので, この量が少ない群(BA-<A>)と多い群(BA-<B>)の二群に分けた。両群のSCNには形態異常と低形成がみられ, その体積は対照群に比べ神経線維の量の少ないBA-<A>群の左側核が58%で, 右側核が61%であり, 量の多いBA-<B>群の左右の核が73%であった。両群とも左右の核の間で有意差はなく, また両群の間の比較では, BA-<A>群の核の体積が若干小さい傾向を示したが有意差はなかった。BA-<B>群で調べたSCNの細胞密度は, 同一個体の左右の核の問でも, 対照群との比較でも有意差はなかった。BA-<B>群で算出されたSCNの細胞数の相対値は, 左右の核とも対照群の72%であった。BAラットのdLGNには明らかな低形成がみられ, BA-<A>群の左右の核の体積は対照群の39%であり, BA-<B>群の左側核は34%で, 右側核は36%であった。両群とも左右の核の間で有意差はなかったが, 両群の間の比較では, 神経線維の量の多いBA-<B>群の体積が若干小さい傾向を示した。BA-<B>群で調べたdLGNの細胞密度は, 左右の核の間で有意差はなかったが, 左右の核とも対照群に比べ有意に高い値を示した。BA-<B>群で算出されたdLGNの細胞数の相対値は, 左側核が対照群の44%で, 右側核が48%であった。一側性無眼球症(UA)ラットでは無眼球側の視神経は欠損していたが有眼球側には正常の太さの視神経が存在した。その視神経の視交叉部での交叉率には個体差がみられたので, 正常ラットと同じ約9対1の交叉率を示す群(UA-<C>), 3対1交叉群(UA-<D>), 大交叉群(UA-<E>)の三群に分けた。但し, 大交叉群は2例のみだったので, SCNやdLGNの統計処理の対象から外した。9対1交叉群の多くのSCNの形態は対照群と同じだったが, いくつかのSCNには形態異常がみられた。SCNの体積は視神経線維の投射量の多い無眼球側核が対照群の76%で有意に小さかったが, 投射量の小ない有眼球側核は有意差がなかった。左右の核の比較では, 無眼球側核が小さい傾向を示したが有意差はなかった。BAラットとの比較では, 有限球側核が有意に大きかった。SCNの細胞密度は, 左右の核の問で有意差がなかったが, 対照群やBAラットの神経線維の量の多い群に比べ左右とも有意に高い値を示した。SCNの細胞数の相対値は, 無眼球側核が対照群の85%で, 有限球側が103%であった。9対1交叉群の視神経線維の投射量の多い無眼球側のdLGNの形態は対照群とほとんど差がなかったが, 投射量の少ない有眼球側のdLGNには低形成がみられた。dLGNの体積は, 左右の核とも対照群に比べ有意に小さく, 無眼球側核が対照群の85%で, 有眼球側核が51%であった。左右の核の比較では, 有眼球側核が有意に小さかった。BAラットとの比較では, 9対1交叉群の有眼球側核とBAラットの神経線維の量の多い群の左側核との間で有意差がなかったが, その他のdLGNはすべて9対1交叉群が有意に大きかった。dLGNの細胞密度は, 左右の核の間で有意差がなかったが, 対照群に比べ有眼球側核が僅かながら有意に高い値を示した。dLGNの細胞数の相対値は, 無眼球側核が対照群の90%で, 有眼球側核が57%であった。3対1交叉群のSCNは9対1交叉群と同様な形態を持ち, その体積は左右の核の間で有意差がなく, 対照群との比較では, 9対1交叉群と同様な傾向を示した。BAラットとの比較では, 3対1交叉群の視神経線維の投射量の多い無眼球側核がBAラットの神経線維の量の少ない群の左側核より有意に大きかったが, その他のSCNの問では有意差がなかった。3対1交叉群と9対1交叉群との比較では, SCNの体積に有意差はなかった。3対1交叉群の左右のdLGNの形態にはほとんど差がなく, 左右とも対照群に比べ若干小形で, 核内の神経線維の量は少なかった。dLGNの体積は視神経線維の投射量の少ない有眼球側核が対照群の59%と有意に小さかったが, 投射量の多い無眼球側核は72%であったが, 有意差は得られなかった。左右のdLGNの間で有意差はなく, 左右ともBAラットに比べ有意に大きかった。3対1交叉群と9対1交叉群との比較では, 3対1交叉群の有眼球側核が9対1交叉群の無眼球側核より有意に小さかったが, その他のdLGNの間では有意差がなかった。
- 岐阜医療科学大学の論文
- 1989-12-31
著者
-
酒井 恒
名古屋大学第一解剖学
-
竹内 郁夫
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所発発生学部門
-
酒井 恒
名古屋大学医学部解剖学第1教室
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酒井 恒
名古屋大学医学部
-
竹内 よし子
岐阜医療技術短期大学衛生技術学科
-
竹内 よし子
岐阜医療技術短大衛生技術学科
-
竹内 郁夫
愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所
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